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大規模DNA解析で青銅器時代の秘密に迫る

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 9 | doi : 10.1038/ndigest.2015.150914

原文:Nature (2015-06-11) | doi: 10.1038/522140a | DNA deluge reveals Bronze Age secrets

Ewen Callaway

古代人ゲノムの集団スケールでの分析が可能になったことで、欧州の言語や文化、技術のルーツと、それらが欧州からアジア全域にかけてどのように広まったかについて、重要な手掛かりが得られた。

図1 印欧語族の拡散
a 共通の起源を持つと考えられている印欧語族の言語は、ユーラシア広域における、有史以来の使用が記録されている(緑=現在の使用国)。これまでその地理学的起源として、2つの地域が提唱されてきた。トルコのアナトリア地方と、黒海とカスピ海の間に広がるステップ(ポントス–カスピ海ステップ)である。
b HaakらとAllentoftらによる、欧州全域と中央アジア出土のサンプルから得た古代DNAの分析結果は、どちらもステップのヤームナヤ文化からの人の移動を示していた。両者は、欧州中央部で栄えた縄目文土器文化がヤームナヤ文化を起源とすると結論している。Allentoftらはさらに、東方のアファナシェヴォ文化もヤームナヤに関連しており、またアンドロノヴォ文化とシンタシュタ文化は縄目文土器文化にその起源を持つことを示した。矢印は人の移動を示し、縄目文土器文化からの複数の矢印は、この考古学的時代の人々(あるいはその血縁)による、印欧語族の広範囲への拡散を反映している(色分けした区域の境界は、おおよそのもの)。 | 拡大する

2010年、4000年前の一房の毛髪から最初の古代人ゲノムが解読1された。それからわずか5年後の現在、研究者たちは現代人のゲノムと同様、数十の単位で古代人ゲノムの塩基配列を解読し始めており、このような集団スケールでの塩基配列解読から、ユーラシアの青銅器時代についての長年の疑問が解かれつつある。

青銅器時代(紀元前3000~紀元前1000年頃)のユーラシアでは、技術や文化が急激に変化した。手作業で精巧に作られた武器や二輪戦闘馬車を使用する戦いの技術や、埋葬習慣の変化などの新しい文化的伝統が、黒海とカスピ海の間に広がるステップ(ロシアとウクライナにまたがる草原地帯)を起点として、欧州とアジア全体へと広まったと考えられる。

研究者たちによれば、大量のDNAデータが入手可能になるにつれ、マスゲノムの手法によって過去のありさまがますます正確に分かるようになり、古代の事象が、食習慣や人々を苦しめる病気などを含む現代の人類社会をいかに形作ったかを示してくれるだろうという。

ゲノミクス研究の技術は、以前では考えられなかったほどに進歩している。オックスフォード大学(英国)の進化遺伝学者Greger Larsonは「あと5年もすれば、我々は数万人分の古代ゲノムについて語っていることでしょう」と、驚きを隠せない様子だ。古代人集団ゲノミクスは、DNA塩基配列解読の低価格化と、極度に分解され、損傷を受けた古代のDNAを現代の汚染物質から分離する技術が、小規模な研究室単位で利用可能になったことによって幕を開けた。

デンマーク自然史博物館(コペンハーゲン)の古ゲノミクス研究者Morten AllentoftとEske Willerslevはこのような最新の技術を利用して、紀元前3000~西暦700年にユーラシア全域に居住していた101人のゲノムの塩基配列を解読した2。「80人でやめることもできたのですが、まあ、いいじゃないか、100人分以上解読しよう、ということになったのです」とAllentoftは言う。

Allentoftによれば、解析した塩基配列を用いることで、何十年間にもわたり考古学者を悩ませてきた問題に取り組むことが可能になったという。例えば、ユーラシアの青銅器時代の文化的な変化は人々の移動に起因するのか、あるいは単に知識が広まった結果なのかに関して、これまで研究者たちの意見は真っ二つに分かれていた。そうした中、Allentoftのチームは人々の移動の証拠を見つけた。青銅器時代の最初期に、欧州北部および中部の人々の遺伝的構成が大規模にシフトしていたことを発見したのだ。この地域の人々のゲノムは、紀元前3000年以前は中東の初期農耕民のゲノムや、さらに時代をさかのぼった欧州の狩猟採集民のものに類似していた。ところが紀元前2000年頃のこの地域の人々のゲノムは、紀元前2900年頃にステップに現れたヤームナヤ(Yamnaya)文化の人々のゲノムに近くなっていた。

この研究結果は、アデレード大学(オーストラリア)の分子古人類学者、Wolfgang Haakのチームによる古代欧州人69人分のゲノム塩基配列の解読から導かれた結果3とほぼ同じだ。両チームとも、ヤームナヤの人々の移動が、少なくとも部分的にはインド・ヨーロッパ語(印欧語)族(欧州からインドにかけた地域で使用されている言語の多くは同起源であると考えられることからこのように称される)の欧州西部への広がりの原因であったと推測している。

Allentoftのチームはまた、紀元前2900~紀元前2500年に中央ロシアのアルタイ山脈の近くに住んでいた人々にヤームナヤ文化人の遺伝的痕跡を見いだした。この知見は、アジアのこれほど奥地で印欧語族の言語が話されている理由の説明となる可能性がある。「青銅器時代の東方文化がヤームナヤ文化に関連していることはかなり明白です」とハーバード大学医学系大学院(米国マサチューセッツ州)の人口遺伝学者Pontus Skoglundは言う。しかし彼はまだ、ヤームナヤ文化を持った人々の移動のみで全ての印欧語族の言語の起源を説明できるとは考えていない。

古代の人口ゲノミクスからも、肉体的・生理学的形質に関する手掛かりが得られている。Allentoftのチームは、現在では欧州北部の人でほとんど普遍的に見られる乳糖耐性(成人になっても乳を消化できる能力)が、青銅器時代の欧州人では稀にしか見られないことを発見した。この結果は、初期欧州農耕民は乳糖耐性で乳からカロリーをうまく摂取していた、という従来の主張に矛盾する。塩基配列解読を行った101人のうち、ヤームナヤ文化人では、乳糖耐性に関与するDNA配列のバリエーションを持つ傾向が最も強く見られた。つまり、ステップの移動民族がこの形質を欧州に持ち込んだと考えられるのである。

また、別の研究チームによる83人の古代欧州人のDNA分析結果からは、濃い体毛と多数の汗腺に関連する変異が、7700年前にはスカンジナビア人の間ですでに一般的であったことが明らかになった4。この変異は、かつては東アジアで出現したと考えられていたものであることから、両グループ間の関連性が示唆される。2015年3月にbioRxivのプレプリントサーバーに発表されたこの分析では、身長に対する進化圧の証拠も示された。それによれば、現在のスペインとポルトガルに農業が伝来したと考えられている8000年前以降に、イベリア人の身長は低くなったようだ。一方、ステップから移動してきたヤームナヤの人々は、彼らの隣人より背が高かったらしい。

Larsonによれば、近い将来、研究者たちは、現代人の病気に対する感受性にどのように過去の出来事が影響を与えたかを解明するためにゲノムを調べるようになる可能性が高いという。例えば、欧州人のおよそ半数が犠牲者となった14世紀の黒死病流行からの生存者は、ある特定の感染から体を保護する遺伝子バリアントを持っていたのかもしれない。

「今は実におもしろい時期です。技術が、疑問を発する我々の能力を追い越してどんどん先に進んでいるからです」とLarsonは言う。彼の研究室では、家畜化された犬の起源を明らかにする研究も行っており、古代のイヌとオオカミからすでに4000ほどの試料を集めている。「まずは、なるべく多くの塩基配列を解読しようじゃないですか。疑問を発するのはその後です」。

(翻訳:古川奈々子、編集:編集部)

参考文献

  1. Rasmussen, M. et al. Nature 463, 757–762 (2010).
  2. Allentoft, M. E. et al. Nature 522, 167–172 (2015).
  3. Haak, W. et al. Nature 522, 207–211 (2015).
  4. Mathieson, I. et al. Preprint at bioRxiv http://dx.doi.org/10.1101/016477 (2015).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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