News

ローレンシウムの居場所は決まるか

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2015.150603

原文:Nature (2015-04-08) | doi: 10.1038/nature.2015.17275 | Exotic atom struggles to find its place in the periodic table

Davide Castelvecchi

103番元素ローレンシウムの第一イオン化エネルギーの測定に初めて成功した。周期表上のローレンシウムの位置と周期表自体の構造をめぐる議論が再燃するかもしれない。

図:(上)重ランタノイド(黒)と重アクチノイド(赤)領域のイオン化エネルギー
(下)イオン化エネルギーの値を高さで表した元素の周期表
アクチノイドのイオン化エネルギーがランタノイドに見られる傾向と一致した。
(アクチノイドのは予測値、他の●は実測値、*は今回新たに計算した理論値) | 拡大する

日本原子力研究開発機構

化学者と物理学者らによる国際共同研究チームが、103番元素ローレンシウム(Lr)の第一イオン化エネルギーの測定に世界で初めて成功し、Nature 2015年4月9日号に報告した1。今回の成功は化学では離れ業といえる。ローレンシウムは、自然界に存在せず人工的に作るしかないが、ごく微量しか作ることができない上、寿命が短い(ローレンシウム256で半減期約27秒)からだ。

ローレンシウムは、サイクロトロン粒子加速器を発明したアーネスト・ローレンスにちなんで名付けられた。第一イオン化エネルギーは、中性原子から電子を1個取り去って陽イオンにするために必要なエネルギーのことで、原子の化学的性質を理解するための基礎となる。しかしこれまでに測定値が得られていたのは、99番元素のアインスタイニウムまでであった。ローレンシウムは、第一イオン化エネルギーが測定された中で最も重い元素となった。

茨城県那珂郡東海村の日本原子力研究開発機構(JAEA)の研究者らは、人工同位体であるカリホルニウムでできた標的にホウ素イオンビームを照射することで、ローレンシウムを合成した。この方法では、ローレンシウム256(103個の陽子と153個の中性子を持つ同位体)が数秒に1個生成する。

研究者らは、合成したローレンシウム原子をヨウ化カドミウムのエアロゾル中で捕まえ、2700ケルビン以上に加熱した金属表面に接触させた。高温の金属表面との相互作用によって、一部の原子は電子を1個放出して陽イオンとなる。こうしてできた陽イオンの数を数えることで、イオン化に必要なエネルギーを計算できるわけだ。その結果、ローレンシウムの第一イオン化エネルギーはたったの4.96電子ボルトであることが分かった。これは、周期表中の元素では5番目に低い。「異常なほど小さな値です。」とJAEAの化学者で論文著者の佐藤哲也は言う。

実験の結果から、ローレンシウムの最外殻電子は、非常にゆるく束縛されていることが示唆された。この性質は、周期表の左端の元素(アルカリ金属:ナトリウム、カリウムなど)と同様であり、共著者であるテルアビブ大学(イスラエル)の研究者らによる理論予測とも一致する。

アクチノイド論争

今回の結果によって、「ローレンシウムを周期表のどこに配置するべきか」という議論が再燃する可能性がある。周期表は、元素の最外殻電子の配置によって族やブロックに分けられている。ブロックの分類は、最外殻電子軌道の種類を反映していて、それぞれsブロック、pブロック、dブロック、fブロックと呼ばれる。電子軌道とは、原子核の周りで電子が存在している確率の高い空間領域のことで、量子論を用いて計算される。s軌道は球状、p軌道はダンベル型だが、その他の軌道はもっと複雑な形をしている。元素の化学的な反応性は、最外殻電子の取り除きやすさ、あるいは電子の受け入れやすさなどによって左右される。つまり、周期表の同じ族の元素は電子配置が似ているため、似た化学的挙動を示す傾向にあるのだ。

一部の化学者は、ローレンシウムとルテチウムをdブロック左端に配置すべきだと主張する。これらの元素は、dブロック左端の縦列に属するスカンジウムおよびイットリウムと化学的性質が似ているからだ。この主張に従うと、dブロック左端には、上からスカンジウム、イットリウム、ルテチウム、ローレンシウムが順に並ぶことになる。しかし、多くの標準的な周期表では、この主張とは異なり、ルテチウムとローレンシウムを、それぞれランタノイド(ランタンで始まる15個の元素群)とアクチノイド(アクチニウムで始まる15個の元素群)の最後の元素として位置付けている。そして、ランタノイドとアクチノイドは、別表(fブロック)として周期表の下に添付されている。これらの周期表は、化学者の国際学術機関である国際純正・応用化学連合(IUPAC)が提示しているものを含め、「fブロック元素は全てイットリウムの真下の2つの枠内に属しており、本質的にdブロックのサブユニットである」との考えに基づいて作られているからだ。

ローレンシウムの場合、dブロックかfブロックのどちらに属するのかという単純な2択では済まない。実験と数値モデリングの結果から、ローレンシウムの最外殻電子は、実はダンベル型のp軌道を占めることが示唆されている。ルテチウムから考えるとこの電子はd軌道に入るべきだが、教科書には、p軌道のエネルギーが相対論効果によって低くなるため、このようなことが起こると書かれている。ローレンシウムの内側の電子は光速に近い速度で運動しており、相対論効果によって軌道半径が収縮する(相対論的収縮効果)。この収縮によって原子核の正電荷の影響が遮蔽される(相対論的遮蔽効果)ため、外側の電子に影響が及ぶわけだ。106番元素の超重元素シーボーギウムなどについても同様の効果が見いだされている。

今回の論文共著者の中には、「ローレンシウムはfブロックのアクチノイドに属する」という説が今回の研究によって裏付けられた、と主張する人がいる。JAEAで超重元素研究グループを最近まで率いていたMatthias Schädelは、「イオン化エネルギーが非常に低いことから、この説が見事に裏付けられます」と言う。ルテチウムは、ランタノイドの中でイオン化エネルギーが最も低い。ランタノイドとアクチノイドのイオン化エネルギーが同じ傾向を示すことが明らかになったため、こう結論付けたわけだ。彼は、1980年代に、ローレンシウムとfブロック元素の類似性を示す実験を先駆けて行った研究者の1人だ。

しかし、シンシナティ大学(米国オハイオ州)の化学者William Jensenは、この研究結果がまさに正反対のことを示していると指摘する。ほとんどのアクチノイドの第一イオン化エネルギーは、ランタノイドよりも高い。ローレンシウムでは逆に、第一イオン化エネルギーがルテチウムのそれより低いことから、dブロック元素との類似性が強いと考えられるのだ。このため彼は、2015年3月21日にFoundations of Chemistryに発表した論文2で、ローレンシウムをdブロックに配置するよう提案している。

佐藤は、今回Natureに提示した証拠だけでは問題は解決されないと考えている。また、IUPACの無機化学部門の部門長Jan Reedijkは、「IUPACは、ルテチウムとローレンシウムをfブロックとdブロックのどちらに入れるべきかに関して公式見解をまだ表明していません」と話し、「確かに今回の論文は、この議論を再開し、深めていくのに役立つかもしれません。IUPACは夏の会議でこの問題を取り上げる可能性があります」と付け加える。

「ほとんどの化学者がこうした論争に気付いてもいないのが残念です。きちんと筋の通った周期表を作ることに関心を持つべきだと思います」とJensenは言う。

(翻訳:藤野正美)

参考文献

  1. Sato, T. K. et al. Nature 520, 209–211 (2015).
  2. Jensen, W. Found. Chem. http://dx.doi.org/10.1007/s10698-015-9216-1 (2015).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

プライバシーマーク制度