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ダーウィンの「奇妙な動物化石」の謎が解けた!

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2015.150602

原文:Nature (2015-03-18) | doi: 10.1038/nature.2015.17138 | Mystery of Darwin's ‘strange animals’ solved

Jo Marchant

化石からタンパク質を回収してアミノ酸配列を解読することで、DNAの回収が困難な古い年代の化石であっても解析できることが実証された。この手法は、理論的には数千万〜数百万年前の化石にも適用できることから、生物の系統分類学に革命をもたらすかもしれない。

トクソドンの復元想像図。体はサイ、頭はカバ、歯は齧歯類という姿で描かれている。その化石から回収されたコラーゲンのアミノ酸配列は、この動物がウマやバク、サイに近縁なことを示唆している。 | 拡大する

Credit: Illustration by Peter Schouten from the forthcoming book "Biggest, Fiercest, Strangest" W. Norton Publishers (in production)

チャールズ・ダーウィンが1830年代に英国海軍測量船のビーグル号に乗って南米を訪れたとき、未分類の大型哺乳類の化石をいくつか発見した。その中には、ラクダに似ているが「こぶ」がなくて鼻の長いマクラウケニアや、サイのような体とウマのような頭部と齧歯類のような歯を持つトクソドンが含まれていた。トクソドンについてダーウィンは、「おそらく、これまで見つかった中で最も奇妙な動物の1つだ」と記述している。

ダーウィンの時代から随分たつにもかかわらず、トクソドンが哺乳類の系統樹のどこに位置するのか、これまで定かではなかった1。しかし、1万2000年前の化石から抽出したコラーゲンタンパク質を解析することで、この謎がようやく解けた。研究を行った科学者たちはこの成功から、古代タンパク質の解析が今後、絶滅してから長い時間のたった生物種の研究に大変革をもたらすのではないかと考えている。

かつて南米には、南米有蹄類として知られる250種を超える哺乳類が約6000万年にわたって生息していたが、大型獣の大量絶滅が起こった更新世末(約1万2000年前)に絶滅してしまった。ダーウィンの見つけた化石もその仲間だ。南米有蹄類の祖先については意見が錯綜しており、その要因として、化石記録が断片的なことに加え、南米有蹄類の化石からDNAがうまく回収できないことが挙げられる。南米の温暖な気候条件ではDNA分子が速く劣化してしまうのだ。

そこで、自然史博物館(英国ロンドン)の分子進化生物学者Ian Barnesは、別の戦術を試みた。ヨーク大学(英国)の生物考古学者Matthew Collinsや各国の研究者と組んで、コラーゲンの抽出とそのアミノ酸配列の解析を行ったのである。このタンパク質は、劣化するまでの時間がDNAの約10倍と長く、骨の主要な構造成分の1つでもある。「DNAに比べてコラーゲンは大量に存在するのです」とBarnes。

研究チームはまず、コラーゲンの系統樹を構築した。つまり、コラーゲンのアミノ酸配列の類縁関係に基づいて、さまざまな哺乳類を系統樹上に配置していった。また、系統樹を完成させるために、バクやカバ、ツチブタからコラーゲンを採取してアミノ酸配列を解読する必要もあった。こうしてコラーゲン系統樹を手にした研究チームは、アルゼンチンの2館の博物館に保管されている4つの南米有蹄類標本(約1万2000年前のトクソドン標本2例と、炭素法では年代が測定できなかったマクラウケニア標本2例)からもコラーゲンを抽出してアミノ酸配列を解読し、系統樹のどこに入るかを比較検討した。

化石に基づく2011年の報告では、南米有蹄類はゾウやマナティーとともにアフリカ獣類を構成する動物であることが示唆されていた1。しかし、コラーゲンのアミノ酸配列に基づいた今回の報告によって、アルゼンチンの南米有蹄類標本はウマやバク、サイを含む奇蹄類に最も近縁であることが明らかになった。この成果は2015年3月18日にNatureオンライン版に報告された2

ケンブリッジ大学(英国)の古生物学者Rob Asher(今回の研究チームには入っていない)は、今回の研究成果を「大きな前進だ」と評し、これでようやく、マクラウケニアやトクソドンの身体形質がどのように進化したかを探り始めることができると話す。

古代タンパク質がもたらす革命

大きな成果が得られたにもかかわらず、今回の研究に参加した研究者たちは「これはまだスタート地点に立ったにすぎない」と言う。生命系統樹の研究において、古代タンパク質が古代DNAに引けを取らないほどの革命をもたらし得ることが今回実証されたからだ。彼らは論文中で、古代タンパク質のアミノ酸配列解読法なら「古代DNAの場合よりはるかに古い年代の化石でも解析できる可能性がある」と述べている。Collinsによれば、最新の分析機器の性能からみて、現在では古代の標本からかつての何十倍もの情報が得られるようになっているという。最新の質量分析計を使えば、タンパク質の質量を以前よりはるかに正確に測定でき、タンパク質混合物に含まれる希少な成分を回収して濃縮することも可能なのだ。

これまで回収された中で最古のDNAは、グリーンランドの氷床コアに由来する80万〜45万年前のものだ3。タンパク質であれば、数百万年前のものまで回収可能だと考えられる。2007年に米国の研究チームが、6800万年前の恐竜の化石からコラーゲン断片を抽出してアミノ酸配列を解読したと報告した4が、この結果に対しては異論も多い。これを除くと、今までに回収された最古のタンパク質配列は、320万年前に北極圏に生息していたラクダの一種のものだ5。「400万年前のタンパク質であれば、問題なく回収できるでしょう。寒冷地なら2000万年前のものでも回収可能かもしれません」とCollinsは話す。

タンパク質を回収してそのアミノ酸配列を解読する手法は、DNA回収が難しい高温環境に最近まで生息していた絶滅種について調べる際にも役立つかもしれない。例えば、後期更新世(約12万6000~1万2000年前)に棲息していた、インドネシア・フローレス島の小型のゾウや巨大な齧歯類、オーストラリアの巨大なトカゲ類や巨大カンガルーといった、Collinsの言う「奇妙で不思議な」動物たちだ。

Asherは、古代タンパク質が古代DNAほどの革命をもたらすとは思っていないが、その秘めたる可能性を思うと「胸がわくわくする」と述べている。彼によれば、過去数百万年以内に絶滅した生物種に関する通説が、「古代タンパク質の解析によって揺らぐ可能性だってある」という。

(翻訳:船田晶子)

参考文献

  1. Agnolin, F. L. & Chimento, N. R. Mamm. Biol. 76, 101–108 (2011).
  2. Welker, F. et al. Nature http://dx.doi.org/10.1038/nature14249 (2015).
  3. Willerslev, E. et al. Science 317, 111–114 (2007).
  4. Asara, J. M. et al. Science 316, 280–285 (2007).
  5. Rybczynski, N. et al. Nature Commun. 4, 1550 (2013).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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