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重力定数の危機にライバルが結集

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 1 | doi : 10.1038/ndigest.2015.150109

原文:Nature (2014-10-09) | doi: 10.1038/514150a | Rivals join forces to nail down Big G

Elizabeth Gibney

危機にある重力定数の「真の値」を見いだす実験を計画するため、計量学者たちが会合を重ねている。

キャベンディッシュが1798年に重力定数を測定するために使ったねじり秤の模型。

SSPL/Getty images

重力定数(万有引力定数)Gは、自然界の最も基本的な物理定数の1つだが、人類はまだ、精度の高い値を見いだしていない上、科学者たちが実験で得た重力定数の値のばらつきは近年大きくなってきている。重力定数を測定している世界の一流の計量学者たちは、会合を重ね、正しい測定値が得られる実験計画を考え出そうとしている。重力定数の測定には、非常に精密な実験が必要であり、これまでライバルだった研究者たちがともに研究することも必要になりそうだ。

英国の科学者アイザック・ニュートンは、1687年の著書『自然哲学の数学的諸原理』で、重力に関する理論を発表した。ニュートンの重力理論では、2つの物体間に働く重力は、2つの質量の積に比例し、その距離の二乗に反比例する。この重力を与える比例係数がG(地球上での重力による加速度を示す小文字のgと区別するため、大文字のGで表す)であり、Gに2つの質量を掛け、距離の二乗で割ることによって引力の絶対値が得られる。しかし、ニュートンの理論から300年以上経った今でも、重力定数の測定値の確実な数字は3桁にとどまっている(2010年CODATA推奨値は6.67384(±0.0008)×10-11 m3 kg-1 s-2)。

独立した複数の物理学者グループが、重力定数の真の値を突き止めようと数十年にわたって測定実験を続けてきたが、近年、実験結果は1つの値に集まらずに逆に分散し、公式に決定された値の不確かさは大きくなってきている(グラフ「重力定数の困難」参照)。国際度量衡局(BIPM;フランス・パリ)の元局長であるTerry Quinnは、「物理学の基本的な定数で、測定結果がこれほど大きくばらついてしまっているものは他にありません。測定実験の一部、あるいは全てが、測定結果の不確かさをひどく過小評価しているか、有意な系統誤差を見逃しているかのどちらかに違いありません」と話す。

SOURCE: G. ROSI ET AL. NATURE 510, 518–521 (2014)

計量学者たちは、この問題を解決する計画を練るため、2014年10月9日と10日に米国メリーランド州ゲイサーズバーグにある米国立標準技術研究所(NIST)で「ニュートン重力定数研究会(Newtonian constant of gravitation workshop)」の会合を開く(訳註:実際に予定どおり行われた)。

重力は極端に弱い力であるため、測定が難しい。例えば、ホワイトボードなどに紙を留める磁石付きクリップを考えてみよう。クリップに付いた小さな磁石の電磁気力は、地球全体の質量による重力に勝り、紙を留めることができる。重力定数を測定するためには、重力以外の全ての力を除去しなければならない。重力定数を測定するための最も古く、いまだに最も広く使われている方法は、ねじり秤による測定だ。ねじり秤はワイヤーにつるされた水平の棒で、棒の両端の質量と、別の質量との間に働く引力による棒のわずかな回転を測定する。この他に、巨大な質量の存在による、振り子の位置の変化、天秤につるされた試験物体の重さの変化、低温のルビジウム原子の加速度の変化を測定する方法などがある。

今後、少数の実験方法を選び出し、それに基づいて重力定数測定研究機関協議会(Newtonian Constant of Gravitation International Consortium)のメンバーが実験を行い、実験の経過はこれまでになく厳密にチェックする、ということになる見通しだ。こうした少数の実験をどのように選ぶかが、今回の研究会の重要な議題だ。各実験は、2つの独立な研究グループによって繰り返される上、実験装置は第3の研究機関が作り、試験済みの同一の装置を使う。実験が行われている間(装置を調整するための時間も必要だ)、この2グループの外部の専門家が実験の欠陥を探す。今回の研究会の旗振り役であるQuinnは、「これまで科学者たちは、測定結果が発表された後でお互いの実験の欠陥を探していました。このため、見つかった問題点が本当に食い違いの原因であるかを確かめることが難しかったのです」と説明する。

研究会の出席者たちはこの計画に乗り気だが、実験方法を選ぶことは簡単ではないだろう。科学者たちは自身が慣れた方法を支持するとみられるからだ。イタリアのトリノ工科大学の物理学者Andrea De Marchiも、自身の方法を研究会で提案するつもりだ。「私は、私の実験方法で12年間研究を続けてきました。他のどの研究者もそれは同じでしょう」と彼は話す。

重力定数を測定している科学者たちは今まで、それぞれの方法で競争してきた。NISTの実験物理学者Stephan Schlammingerは、「誰もが自分の値を信頼しています。また、研究者たちの多くはかなりの自負心を持っています。誰もが自分のアイデアを提案したいでしょう。この状況ですから、実験方法を絞り込むことは難しいかもしれません。しかし、私たちはみな大人です。最後には歩み寄り、おそらく、同意は可能だと思います」と話す

ワシントン大学(米国シアトル)の実験物理学者Jens Gundlachは、「他の研究者と一緒に研究を行うことはストレスを和らげてくれるかもしれません」とみる。彼は、「他の研究者の論文に書かれている結果と異なる実験結果を得ると、とても落ち着かないものです。昼も夜も『自分は何かへまをしたのでは』と考えてしまいます」と話す。

もう1つの問題は、研究資金だ。これまで、重力定数の測定実験は、他の研究計画に便乗することが多かった。測定実験の必要性を人々に納得させることは難しいかもしれない。今のところ、重力定数がある値をとらなければならないという理論や実験はない。また、衛星や惑星の軌道を決定するには、中心天体の質量と重力定数を掛け合わせた結果(積)だけが重要で、それは定数が分からなくても十分正確に決定できる。

重力定数の精密な値を求める意義は、重力理論と量子力学を統合する試みである「量子重力」の分野でなら見つかる可能性はある。しかし、今のところ、主たる動機は、信頼できる値が得られていないことに対する不満、ということだけだ。「不一致が存在する状態のままにしておくことは耐え難いことです」とSchlammingerは話す。「もしかすると、重力に関する私たちの基本的な理解に問題があるので、重力定数が不安定であるように見えているという可能性はあります。しかし、その可能性は低いでしょう」と彼は話す。

Quinnは、NISTが研究会を主催していることを指摘し、測定計画の当初の研究資金はNISTが負担してくれるだろうと考えている。しかし、今のところ、まだ何も決まってはいない。Quinnはこう話す。「資金のめどがついたなら、重力定数測定研究機関協議会は今後5年間で、重力定数の信頼できる値か、少なくとも不一致の原因の手掛かりを得ることができるでしょう。この問題に解決の道はあるはずです。なければおかしいのです」。

(翻訳:新庄直樹)

※訳註:研究会には各国から53人の研究者らが参加し、(1)今後は国際度量衡委員会(CIPM)などの機関が主催して、この問題を検討する会合を定期的に開く必要がある(2)他からかけ離れた値を出した既存の測定装置を使って、新たな研究者チームで再実験を行うことが非常に重要である(3)原子干渉法などの新しい方法で測定することが問題解決に有効である、という意見で一致した。

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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