News & Views

ゾウリムシの「接合型継承の謎」を解明

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 8 | doi : 10.1038/ndigest.2014.140827

原文:Nature (2014-05-22) | doi: 10.1038/nature13333 | Keeping one’s sex

Douglas L Chalker

原生生物であるヨツヒメゾウリムシは、接合後も子が親の接合型を常に維持している。この遺伝の仕組みは、ゲノムに外来DNA塩基配列が入り込まないように、RNA誘導型のDNA削除経路が働いてゲノムを守っている結果であることが明らかになった。

「正反対のもの同士は引かれ合う」という言葉がある。単細胞生物であるヨツヒメゾウリムシ(Paramecium tetraurelia)の場合、この「正反対のもの」に当たるのが2種類の接合型(E型とO型)だ。E型細胞とO型細胞の「交尾」は「接合」と呼ばれる。可逆的な細胞融合であるこの接合では、2つの細胞が接着して相手の細胞と遺伝物質を交換し合った後、元のように2つに分かれて「子」細胞となる。これら2つの子細胞はいずれも、両親のゲノムが混じり合った同一のゲノムを持って成長するにもかかわらず、どういうわけか、それぞれの細胞はその親細胞の接合型を維持している。つまり、E型細胞の子は必ずE型に、O型細胞の子は必ずO型になるのである。この特殊な「接合型の継承」は長い間謎に包まれていたが1、今回、高等師範学校(フランス・パリ)のDeepankar Pratap Singhらの研究でようやく解明され、Nature 5月22日号447ページで報告された2。ヨツヒメゾウリムシの接合で接合型に特異的な遺伝情報を親から子へと伝えているのは、「低分子RNA」であることが明らかになったのだ。

図1:ゾウリムシの接合型のエピジェネティックな遺伝
ヨツヒメゾウリムシにはE型とO型の2つの接合型があり、それぞれ、体細胞ゲノムを格納する大核と生殖細胞系列ゲノムを格納する小核を持つ。有性生殖では、まずE型とO型の親細胞同士が接合して生殖細胞系列ゲノムを交換し、その後この2細胞が分離すると、両親の遺伝情報を持った(図では2色で示す)新しい生殖細胞系列ゲノムと体細胞ゲノムができる。このとき、新しい生殖細胞系列ゲノムと親が元から持っていた体細胞ゲノムとが比較され、外来配列に相当するRNA分子が削除される。E型細胞でのみ発現するタンパク質mtAの遺伝子プロモーター領域は、E型の親細胞ゲノムにしか存在しないため、O型細胞の子孫のみで削除され、E型細胞の子孫では削除されない。こうしたDNA削除機構によって接合型が継承される。

ゾウリムシ(Paramecium)は繊毛虫門に属する原生動物で、この仲間は生殖細胞系列ゲノムと体細胞ゲノムを持っており、「小核」と「大核」という機能の異なる2つの核にそれぞれ格納されている。ゾウリムシが互いに細胞を接着させて接合を始めると、それぞれの細胞では小核が減数分裂を経て2つの配偶核を形成し、次いでその1つを接合相手と交換し合う。すると2つの細胞内で、元からあった配偶核(静止核)と新たに受け取った配偶核(移動核)とが融合する。つまり、それぞれの細胞は遺伝的に同一な2つの接合子ゲノムを持つようになるのである。その後2つの細胞が分離すると、親が持っていた古い大核(旧大核)は廃棄され、それぞれの細胞に固有の細胞質内で、接合子ゲノムから新たな体細胞ゲノムと生殖細胞系列ゲノムが作られる。これらの新しいゲノムは、E型とO型の2つの親ゲノムが混ざり合ったものであるにもかかわらず、子細胞の接合型はそれぞれ、接合する前と同じままである(図1)。

新しい体細胞ゲノムの形成には大規模なゲノム再編成が関わっており、その1つが「転移因子の削除」である。転移因子は、トランスポゾンとも呼ばれる、ゲノム内を移動できる外部由来のDNA塩基配列だ。他にも、タンパク質コード領域内に多く存在する短い塩基配列(最も短いもので26塩基対ほど)が、数万も削除される3。2つの細胞が接合して間もなく、小核では、削除すべきDNAを検出するために生殖細胞系列の全ゲノムに相当する低分子RNAプールが作られる。これらの低分子RNAはまず、廃棄される前の旧大核に運ばれ、そこで親の体細胞ゲノムの塩基配列と比較され、一致する部分のある低分子RNAは全てプールから除去される(配列の比較は、実際には、減数分裂時に作られる低分子RNAと、親の体細胞ゲノムから発現した転写産物との間で起こると考えられている4)。

この過程で除去されずに残った低分子RNAは、生殖細胞系列ゲノムに存在するが親の体細胞ゲノムには存在していない塩基配列であることを意味する。従って、基本的に外来DNAに相当するといえる。こうした低分子RNAは次に、Piwi関連タンパク質と呼ばれる分子との結合によって成長中の体細胞ゲノムへと運ばれ、そこで、これらの低分子RNAと相同な塩基配列は全て削除される。そしてその結果、親細胞のゲノムを手本にして再編成された体細胞ゲノムが出来上がるというわけだ。繊毛虫類に見られるこのRNA誘導型のDNA削除経路は、進化的に見ると、多細胞生物の生殖系列細胞でトランスポゾンの発現を抑制するPiwi相互作用(pi)RNA経路に相当する5。Singhらは今回、ゾウリムシがこの経路を性決定の調節に適応させたことを明らかにした。

また、今回の研究で、E型細胞がO型細胞を引き付けるのは、E型細胞の細胞表面に発現するmtAというタンパク質であることが分かった。mtAは、E型細胞にしか発現しない。というのも、O型細胞の大核では、mtA遺伝子のプロモーター配列がトランスポゾン由来配列のように振る舞うために削除対象となる一方で(図1)、親の体細胞ゲノムにこの配列が存在するE型細胞の大核では、このプロモーター配列が削除されることはないからである。つまり、mtA遺伝子のプロモーター配列の有無に関する情報が、相同なRNAを介して親ゲノムから子ゲノムへと伝えられ、親に配列があればDNA削除を防止し、配列がなければ削除を促す、ということを効率よく行うのだ。こうして、ゾウリムシの接合型は世代を超えて確実に受け継がれていく。2つの子細胞が同じDNA塩基配列を持って成長を始めても異なる遺伝子活性パターンが受け継がれる、というこの過程は、エピジェネティクス現象の1つといえる。

このDNA削除過程は繊毛虫類でしか知られていないが、RNAが関与する遺伝子発現抑制は繊毛虫類だけに限らない。実際、いくつかの研究で、遺伝子発現や表現型の変化の世代間継承に低分子RNAが広く関わっていることが示唆されている。例えばショウジョウバエ(Drosophila)では、染色体末端に近い領域から作られる母系piRNAが、ゲノム内の別の場所に存在しているトランスポゾンや他の相同な配列の発現を抑制できる6。また線虫のCaenorhabditis elegansでは、前の世代で存在もしくは発現していなかった実験的導入遺伝子に対して、3つの低分子RNA経路が共に働いて抑制し、それによってゲノム内の新たな外来配列をチェックしていることが示されている7–9。これらの例では、低分子RNAと、既存の利用可能なmRNA転写産物(ゲノムのタンパク質コード領域から作られたもの)との比較によって、現在の世代で発現しているゲノムの内容が次世代に伝えられる。しかしゾウリムシでは、タンパク質コード配列と非コード配列の両方が低分子RNAと比較されている可能性がある。Singhらの研究から、成長中の細胞では、全てのゲノム塩基配列に相当する「生殖細胞系列ゲノム由来の低分子RNA」と「体細胞ゲノム由来の転写産物」が作られることが示されたからだ2

これまで、piRNA経路は主に、自己と非自己とを区別し、転写因子などのように外部からゲノムに侵入した配列の発現を抑制するための仕組みだと考えられてきた。しかしSinghらは今回、RNAの関与するゲノム防御経路が、エピジェネティック調節機構の進化に利用され得ることを示している。また、この経路の遺伝子調節への転用は今回の例だけにとどまらず、もっと頻繁にさまざまなところで起こっている可能性がある。Singhらは、ヨツヒメゾウリムシと同様にエピジェネティックな接合型継承が見られる近縁種も調べた。すると、そのうちの1種Paramecium septaureliaでは、mtAプロモーターはいずれの接合型でも削除されないが、その代わりO型細胞で、mtBという別の遺伝子内の1配列が削除されることが分かった。mtBmtAの発現に必要な転写調節タンパク質をコードしているため、この配列削除によってmtBが機能しなくなると、mtAも発現しない。これに対し、E型細胞ではこの配列が削除されないため、mtBタンパク質が発現して機能し、その結果mtAも発現する。

つまり、接合型の維持という形質1つをとっても、このDNA削除経路は、2つの異なる遺伝子をそれぞれエピジェネティックに調節するための適応を2回も遂げたことになる。こうして、ゾウリムシの有性生殖で接合型が受け継がれるという謎は、接合型の発見から75年以上を経てようやく解明された。今回の発見が呼び水となって、相同RNAが関与する細胞固有の遺伝子調節の例が他にも次々と見つかることを期待したい。

(翻訳:船田晶子)

Douglas L Chalkerは、ワシントン大学(米国セントルイス)に所属。

参考文献

  1. Sonneborn, T. M. Adv. Genet. 1, 263–358 (1947).
  2. Singh, D. P. et al. Nature 509, 447–452 (2014).
  3. Arnaiz, O. et al. PLoS Genet. 8, e1002984 (2012).
  4. Lepère, G., Bétermier, M., Meyer, E. & Duharcourt, S. Genes Dev. 22, 1501–1512 (2008).
  5. Malone, C. D. & Hannon, G. J. Cell 136, 656–668 (2009).
  6. Josse, T. et al. PLoS Genet. 3, 1633–1643 (2007).
  7. Ashe, A. et al. Cell 150, 88–99 (2012).
  8. Lee, H.-C. et al. Cell 150, 78–87 (2012).
  9. Shirayama, M. et al. Cell 150, 65–77 (2012).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

プライバシーマーク制度