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微小世界の謎を解く–結晶構造解析100年の歩み–

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 4 | doi : 10.1038/ndigest.2014.140416

原文:Nature (2014-01-30) | doi: 10.1038/505602a | Atomic secrets: 100 years of crystallography

Nicola Jones

ドイツの科学者マックス・フォン・ラウエは、結晶によるX線の回折現象を発見し、1914年にノーベル物理学賞を受賞した。現在では、X線回折を利用して、単純な鉱物からグラフェンなどのハイテク材料、ウイルスなどの複雑な生物構造体に至るまで、さまざまな物質の構造が解明されている。技術は進歩し、1990年代には分解能がタンパク質結晶構造の画像中の原子1個1個を区別できるレベルに達した上、近年では新たな構造体が年間何万ものペースで画像化されるようになった。さらに最近、新しいX線源が開発され、大型結晶が得られにくいタンパク質の構造の画像化が期待されている。

アイデアの誕生

X線の正体が謎に包まれていた当時、ラウエは「X線が電磁波であるなら、原子が規則正しく並んだ結晶を通る際に散乱され、岸壁の割れ目を通る波のように干渉し合うのではないか」と考えていた。同時に、できた回折パターンから原子の位置を逆算できるかもしれないというアイデアが浮かんだ。1912年、ラウエは共同研究者らとともに、硫酸銅を用いてこの仮説を証明した。

増え続けるデータ

Source: Worldwide Protein Data Bank/ Crystallography Open Database

wwPDB(国際蛋白質構造データバンク)は、1971年から、解析されたタンパク質の構造データを収集しており、wwPDBには現在、約10万のデータが登録されている。他にも、Crystallography Open Database(COD)をはじめとするデータバンクには、鉱物、金属、生体小分子などのあらゆる物質の構造データが登録されている。CODは現在、一部の構造体について3次元モデルの印刷方法の説明をデータベースに付記している。

ますますクリアに

Images: Bernhard Rupp/Garland Science/Taylor & Francis Graph: H. M. Berman Protein Sci. 21, 1587–1596 (2012), with updates from Worldwide Protein Data Bank

画像化やデータ解釈の技術が向上した期間。構造の細部を詳しく見ることが可能になり、複雑な分子の解析が行われ始める。

1913: ダイヤモンド

結晶内で炭素原子が正四面体構造をとることが、回折像から確認された。

1923: ヘキサメチレンテトラミン

Credit: Am. Chem. Soc.

有機分子の構造決定に初めて成功。この分子は単純な立方対称性を持つため、解析対象として選ばれた。原子だけでなく分子も、結晶の繰り返し要素になることが判明した。

1925: 石英

ケイ酸塩鉱物の構造決定は、鉱物学の基礎となった。

1952: DNA

Credit: King’s College London

ロザリンド・フランクリンがDNAのX線回折像(フォト51として知られる)を撮影。この画像は、ジェームズ・ワトソンとフランシス・クリックによる二重らせんモデルの構築に重要な役割を果たした。二重らせんモデルは1953年に提唱されたが、この構造の原子分解能画像が得られたのは1980年のことだ。

1958: ミオグロビン

タンパク質の構造の画像化に初めて成功。不規則な折りたたみ構造が初めて観察され、これまでの分子構造の概念が覆された。

1965: リゾチーム

酵素の構造の画像化に初めて成功。解析されたのはニワトリ卵白リゾチーム。

1970: シンクロトロン

ドイツ電子シンクロトロン研究所(DESY)で、昆虫の筋肉の研究に、シンクロトロンで発生させたX線が初めて用いられた。結晶構造解析ブームをもたらした。

1978: トマト矮化病ウイルス

完全ウイルスの構造の原子スケールでの画像化に初めて成功。このとき明らかになった基本構造がヒト病原体ウイルスにも当てはまることが、数年後に判明した。

1984: 準結晶

Credit: US Dept of Energy/AFP/Getty

周期性(並進対称性)のない原子配列をとる準結晶が初めて確認され、結晶学の常識が覆された。

2000: リボソーム

Credit: V. Ramakrishnan & D. E. Brodersen/Medical Research Council

DNA情報をもとにタンパク質を組み立てる分子機械の構造の画像化に成功。

2009: X線自由電子レーザー

SLAC国立加速器研究所(カリフォルニア州メンロパーク)の線形加速器コヒーレント光源(LCLS)が稼働開始。画像化技術の新時代の幕開け。

2013: HIV三量体

Credit: AAAS

HIVがヒト細胞と結合する際に重要な部分の四次構造が高分解能で画像化され、フックとして機能する三量体の詳細な構造がようやく明らかになった。

今後の展望

高分解能での構造解析が求められているタンパク質として、スプライソソーム(メッセンジャーRNAの編成・編集を担う)と、核膜孔複合体(核の門番として機能する)が挙げられる。

これらの巨大な構造体は数百ものタンパク質を含んでいるため、結晶化が難しく、また画像化の際、静止させることが困難である。

考えられる策は、構造体の一部を結晶化させ、それをジグソーパズルのようにつなぎ合わせる方法だ。X線自由電子レーザーの利用も有効であろう。

(翻訳:藤野正美)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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