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アンペアの再定義に向けて

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 4 | doi : 10.1038/ndigest.2014.140409

原文:Nature (2014-01-16) | doi: 10.1038/505273a | Ampere to get rational redefinition

Eugenie Samuel Reich

国際単位系(SI)の再定義を視野に入れ、アンペアを物理定数(値が変化しない物理量)と結びつけるために、電子1個の流れの測定が行われた。

1個の電子の流れを測定できる半導体デバイスの走査電子顕微鏡写真。

Credit: PTB

このほど、電子が半導体チップを1個ずつ通り抜ける様子を追跡する実験が行われた。これは、電流の単位である「アンペア(A)」の合理的な再定義をついに可能にする実験である。

現在の定義によれば、1m離して平行に置いた無限に長い2本のワイヤーに電流を流し、ワイヤーが1m当たり2×10-7ニュートンの力を及ぼし合うとき、この電流が1アンペアになる。1948年に採用されたこの定義は思考実験に基づくもので、実験室ではせいぜい近似することしかできないため、何かと具合が悪い。具合が悪いのは、質量の単位である「キログラム(kg)」も同じである。キログラムは、国際度量衡局(BIPM;フランス・パリ)に保管されている円柱形をしたプラチナとイリジウムの合金の質量として125年前に定義されたが、キログラム原器の質量は時間の経過とともに変動するため正確な値とは言い難い。

2013年12月19日にarXivサーバーに投稿された論文1で報告された新しいアプローチによって、電子1個の電荷を表す物理定数eに基づいてアンペアを再定義することが可能になると考えられる。それはまさに、計量学者が長年にわたって探し求めてきた合理的な定義である。「これは非常に困難な試みで、極めて重要な論文です」と、英国国立物理学研究所(テディントン)の物理学者Stephen Giblinは言う。この結果は、2014年11月に開催されるBIPMの活動を承認する国際度量衡総会で支持が得られることだろう。総会では、計量学者が、アンペアとキログラムのほか、同じくSI基本単位である「モル(mol)」と「ケルビン(K)」を、電気素量(e)、プランク定数、アボガドロ数、ボルツマン定数などの物理定数を用いて再定義する提案について議論することになっている。

長さの単位である「メートル(m)」と時間の単位である「秒(s)」もSI基本単位であるが、すでに前者は光速を用いて再定義されており、後者もセシウム原子の基底状態の2つの超微細準位の間の遷移に対応する放射の周期という定数を用いて再定義されている。

アンペアを再定義するための実験1において、ドイツ連邦物理学技術研究所(PTB;ブラウンシュバイク)の物理学者Hans Schumacherらは、「単電子ポンプ」を利用した。単電子ポンプとは、電子に電圧パルスをかけて、量子力学的トンネル効果によって電子を1個ずつ障壁の向こう側に転送する装置である。研究者らは、障壁の間のポイントに蓄積した電荷の変化を検出することで、個々の電子の経路を追跡した。原始的な電子ポンプは1990年代から作られているが、1個の電子が飛び移るたびに電荷の変化を検出することができたのは今回が初めてである。

Schumacherらのポンプは、1秒間にわずか数十個という遅さで電子を転送することができる。これは、精密な測定を行い、アンペアの再定義の原理検証実験となるのに十分な遅さである。しかし、彼らの実験は第一歩にすぎない。電流を測定する電流計を較正するにはもっと大きな電流を流す必要があり、今回の設定は実用的ではないからだ。最終的な目標は、「現示の方法(mise en pratique)」、すなわち、電流の測定値を正確に較正するためにどんな研究室でも再現可能な標準的な設定の実験を作り出すことである。そのため現在は、Schumacherの確認方法を高電流ポンプと組み合わせるための競争が繰り広げられている。

Giblinは2012年に、1秒間に10億個近い電子を転送できる半導体単電子ポンプを世界で初めて製作したが2、電子を1個ずつ追跡することはできなかった。他のタイプのポンプには、電子が超伝導ワイヤーの間をトンネル効果で通り抜ける「ターンスタイル」や、酸化物絶縁層で隔てられたアルミニウムの島の間を電子がトンネル効果で通り抜ける「トンネル接合」がある。けれどもこれらも、1個の電子を追跡するには比較的低い電流で動作しなければならない。アールト大学(フィンランド・エスポー)の物理学者で、2013年にアンペアの再定義のためのアプローチに関するレビュー論文を発表したJukka Pekolaは、「どのコンセプトが生き残るかは分かりません」と言う3

それでも、アンペアもケルビンも、11月の総会を迎える準備はできている。フランス国立計量試験研究所(パリ)の物理学者François Piquemalは、電子の電荷もボルツマン定数も正確に測定されているため、どちらの単位も今日にでも再定義される準備ができていると説明する。

しかし、再定義のプロセスは2018年の総会までずれ込むかもしれない。アンペア、キログラム、モル、ケルビンの4つの単位はどれも絡まり合っており一度に再定義してしまいたいのだが、キログラムの問題が解決していないからだ。キログラムの再定義のアプローチには2つの候補がある。1つは、地球の重力に引かれる試験質量の重さと釣り合う電力を測定するワットバランス(電流天秤)法である。もう1つは、シリコン球の原子の個数を正確に数える方法である。2つのアプローチは、わずかに異なる答えを与える。Piquemalは、単位を再定義する前に、2つの異なるアプローチの間で折り合いをつける必要があると指摘する。

(翻訳:三枝小夜子)

参考文献

  1. Fricke, L. et al. Preprint at http://arxiv.org/abs/1312.5669 (2013).
  2. Giblin, S. P. et al. Nature Commun. 3, 930 (2012).
  3. Pekola, J.P. et al. Rev. Mod. Phys. 85, 1421-1472 (2013).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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