デニソワ人に見つかった未知の絶滅人類の痕跡
今回、現生人類に近い2つの絶滅種のゲノム配列が解読し直された。1つはネアンデルタール人、1つはデニソワ人と呼ばれる旧人集団から得られたものだ。得られた高品質ゲノムを使って再度解析を行った結果、これら2つの「旧人類」集団と現生人類の間では、これまで想定されていた以上の規模で種間交雑が行われたことが示唆された。
この研究成果は、2013年11月18日に英国王立協会(ロンドン)の古代DNAに関する会議で発表された。だが驚きはそれだけではなかった。解析結果から、アジアに未知の人類祖先がいることが示唆されたからだ。つまり、3万年以上前のヨーロッパとアジアには複数の古代人様集団が存在し、その人々の間で種間交雑が行われていたというのだ。
研究チームには加わっていないがその会議に出席していたロンドン大学ユニバーシティカレッジ(英国)の進化遺伝学者Mark Thomasは、「私たちはロード・オブ・ザ・リングのような世界を目にしています。かつてはヒト族の集団がたくさん存在していたと考えられるようになってきたのです」と語る。
初めて発表されたネアンデルタール人1とデニソワ人2のゲノム配列は、古代人史の研究に大変革を引き起こした。それはとりわけ、この2つの集団が解剖学的現生人類と交雑し、多くの現代人の遺伝的多様性に寄与していることが明らかになったためである。
流れの交わり
アフリカ以外にルーツを持つ現生人類は全て、ゲノムの約2%がネアンデルタール人に由来している。パプアニューギニア人やオーストラリア・アボリジニなど、オセアニアに住む一部の集団は、ゲノムの約4%がデニソワ人に由来する。「デニソワ」とは、発見されたロシア・シベリアのアルタイ山脈にある洞穴の名であり、デニソワ洞穴には、3~5万年前の遺物が埋もれている。
しかし、この旧人類研究に携わってきたハーバード大学医学系大学院(米国マサチューセッツ州ボストン)の進化遺伝学者David Reichは、以前の結論が依拠したゲノム配列は質が低く、誤りと空白が山ほどあったことを、英国王立協会の会議で述べた。
Reichらは今回、共同研究者であるマックス・プランク進化人類学研究所(ドイツ・ライプツィッヒ)のSvante Pääboとともに、デニソワ人とネアンデルタール人について、はるかに完成度の高いゲノム配列を得た。その質は現代人ゲノムに引けを取らない。このデニソワ人とネアンデルタール人の高品質配列は、いずれもデニソワ洞穴の骨から得たものだ。
そのデニソワ人ゲノムは、デニソワ人の集団が広い範囲で活動していたことを示している。そしてReichは、デニソワ人の種間交雑の相手は、オセアニア人の祖先にとどまらず、ネアンデルタール人、そして中国をはじめとする東アジア各地の現生人類の祖先も含まれることを会議で明らかにした。Reichによれば、デニソワ人が、現生人類でもネアンデルタール人でもない、「3万年以上前にアジアに存在していた旧人類の絶滅集団」とも交わっていたことがゲノム解析結果から示唆されたのは、全く予想外だったという。
この未知の人類集団の正体が何であるのかという議論で、会議は非常に盛り上がった。この研究に参加していない英国自然史博物館(ロンドン)の古人類学者Chris Stringerは、「未知の人類がどんな集団なのか、見当もつきません」と話す。この未知の集団について、Stringerは、約50万年前にアフリカを離れ、その後ヨーロッパでネアンデルタール人の出現につながったハイデルベルク人(Homo heidelbergensis)と呼ばれる種に近い可能性があると推測する。「おそらくその人類はアジアでも生き延びたことでしょう」とStringerは語っている。
翻訳:小林盛方
Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 2
DOI: 10.1038/ndigest.2014.140202
原文
Mystery humans spiced up ancients’ sex lives- Nature (2013-11-19) | DOI: 10.1038/nature.2013.14196
- Ewen Callaway
参考文献
- Green, R. E. et al. Science 328, 710–722 (2010).
- Meyer, M. Science 338, 222–226 (2012).
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