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安価で性能に優れた液体金属電池

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2014.141204

原文:Nature (2014-09-21) | doi: 10.1038/nature.2014.15967 | Liquid-metal batteries get boost from molten lead

Mark Peplow

液体金属電池技術の進歩でエネルギーの大量貯蔵が可能になり、風力や太陽光といった不安定なエネルギー資源を最大限に活用できるようになるかもしれない。

Felice Frankel

風力や太陽光を利用した、環境に優しい再生可能なエネルギー源の有効利用が望まれているが、こうした資源は断続的で不安定なため、安定した電力供給という市場の需要を満たすには、余剰電力の貯蔵が不可欠だ。今回、そうした電力貯蔵に適した比較的安価な液体金属電池が開発され、再生可能エネルギー利用のさらなる発展と大規模運用の実現に役立つと期待される。

マサチューセッツ工科大学(米国ケンブリッジ)の電気化学者Donald Sadowayらは、以前から電池の3つの主要構成要素(負極と正極と電解質)が全て液体である液体電池に注目し、開発を続けてきた。Sadowayらは今回、旧バージョンの負極をマグネシウムからリチウムへと変更し、正極に鉛を加えることによって、より低い動作温度で十分な性能を保てることを実証し、Nature 2014年10月16日号348ページで報告した1。これを皮切りに、実際に電力網に組み込み可能な液体金属電池の開発競争が激化するかもしれない。

今回開発された液体金属電池は、正極に鉛とアンチモンの溶融合金、負極に液体リチウム、両電極間の電解質にリチウム塩の溶融混合物を用いている。これら3種の液体は、互いに混ざり合わない上、密度が異なるため、同じタンクに入れると分離したドレッシングのように積層する。

この電池では、放電の際に負極のリチウム原子が電子を放出してリチウムイオンになり、電解質中を移動して鉛–アンチモン電極(正極)へと到達する。逆に充電時には、リチウムイオンは正極から負極へと押し返される。このとき、十分な量の電流が流れるため、金属は液体状態を維持できる。

最新の成果

Sadowayらが以前開発した電池では、負極としてマグネシウム、正極としてアンチモンが用いられていたが2、これらの金属は融点が高く、電池を動作させるには700℃近くまで加熱する必要があった。こうした高温条件では、エネルギーが過剰に消費され、内部構成要素の腐食が早くなってしまう。

一方、今回開発された鉛–アンチモン系電池は、450℃という低い温度で動作する。また、携帯型電子機器用の電池で大きな課題となっている耐久性についてもテスト結果は良好で、1800時間の連続動作後も腐食の兆候は見られず、完全な充放電を450回繰り返した後でも94%の容量を維持していた。Sadowayは、10年間毎日充放電を繰り返しても85%の充電容量が維持されると推定する。「ここまでの性能を示す電池は他にありません」。

アルゴンヌ国立研究所(米国イリノイ州シカゴ近郊)に本拠地を置くJCESR(US Joint Center for Energy Storage Research)のディレクターGeorge Crabtreeは、鉛を使って動作温度を下げたことについて「革新的なアイデアで、非常に重要な進歩です」と称賛する。

コスト効率は?

Sadowayの見積もりによると、大型の液体金属電池ユニットのコストは、電力1キロワット時(kWh)当たり500ドル(約5万5000円)程度だという。これは、JCESRが掲げる「1kWh当たり100ドル」という業界目標値(その技術の普及が可能だと判断される基準値)からは程遠い(Nature 2014年3月6日号26ページおよびNatureダイジェスト2014年6月号「充電池開発の最前線」参照)。だが、可動部品が存在せず、液体電極自体が劣化しないことを考慮すると、維持費はかなり抑えられるとSadowayは説明する。「ポイントは、総所有コストなのです」。

しかし、ダルハウジー大学(カナダ・ハリファックス)の電池研究者Jeff Dahnは納得していない。放電の度に貯蔵された電力の2%が無駄になることを指摘し、「金属を液体状態に保つのに電池内のエネルギーを消費する方法では、必然的に電池の効率が下がります。電力網向けのエネルギー貯蔵電池として実際に利用できるとはとても思えません」と彼は言う。

Dahnらは、現在主流のリチウムイオン電池こそが将来を担う電池だと考えている。現在のリチウムイオン電池のコストは、1kWh当たり1000ドル(約11万円)以上と高く、再充電ごとに電極にダメージが蓄積されるが、今後の改良により、性能とともにスケールメリットでコストも改善される、とDahnらは考えている。2015年には、米国ネバダ州で50億ドル(約5500億円)規模の電池工場の建設が始まる予定で、Dahnによると、この工場が稼働するようになれば1kWh当たり250ドル(約2万8000円)までコストを引き下げることも可能だという。

Sadowayのチームは、今後も液体金属電池の化学過程を改良していくつもりだ。未発表だが、動作温度がさらに低く、より長寿命の電池をすでに設計済みだ、と彼は話す。

(翻訳:藤野正美)

参考文献

  1. Wang, K. et al. Nature 514, 348-350 (2014).
  2. Bradwell, D. J.et al. Am. Chem. Soc. 134, 1895–1897 (2012).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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