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ペロブスカイト太陽電池の効率、シリコン太陽電池に迫る

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2014.141215

原文:Nature (2014-09-25) | doi: 10.1038/513470a | Cheap solar cells tempt businesses

Richard Van Noorden

安価な材料で容易に作製できる「ペロブスカイト膜」を使った太陽電池に、業界の関心が集まっている。

現在、ペロブスカイト太陽電池の大きさは郵便切手程度である。実用化にはスケールアップが必要である。

OLGA MALINKIEWICZ, UNIV. VALENCIA

バレンシア大学(スペイン)で光起電力技術を研究する博士課程の学生Olga Malinkiewiczがペロブスカイトのことを知ったのは、2013年4月のことであった。ペロブスカイトとは、最近、低コスト太陽光発電用として期待が集まっている材料である。ペロブスカイトは、現在太陽電池市場の主流で高価な高純度シリコン系と違って、研究室で安価な塩を混ぜ合わせて塗布するだけで容易に膜を形成できる。Malinkiewiczは、すぐに自分で試してみた。「こんなに簡単だなんて信じられませんでした」と彼女は話す。

1年後、彼女は、フレキシブルな(柔軟性のある)ホイルにペロブスカイトをコーティングした研究が認められ、Photonics 21 Student Innovation Award(革新的研究を行う学生に贈られる賞)を受賞した。「それからというもの、電話が鳴りやみませんでした。起業の予定はないかと、投資家の方々からしょっちゅう問い合わせがありました」と彼女は話す。すっかりやる気になった31歳の彼女は、2014年5月までに起業することを決意した。この3カ月で、彼女はスペインから故国のポーランドに移り、ヴロツワフに研究場所を借り、民間会社のソール・テクノロジーズ社(Saule Technologies)を設立した。だが、彼女はまだ博士課程を修了していないという。

Malinkiewiczの思い切った企ては、ペロブスカイトが学究的好奇心から商業化の一歩手前までどれほど勢いよく進んだかを端的に表している。ペロブスカイト太陽電池の電力変換効率は、競合する複数の研究グループによってたった3年で3倍にも高められている。他の太陽電池材料では数十年かかったことを考えると、ペロブスカイトは大変急激な進歩を遂げたといえる。

大型の商用シリコン太陽電池モジュールは、太陽放射の17~25%を電力に変換する。一方、ペロブスカイト太陽電池は、サイズがかなり小さいものの、研究室レベルですでに16~18%の電力変換効率に達している。これらの値は再現性が高く、さらに高い値を叩き出すこともあるほどだ。数カ月のうちに変換効率は20%を超えると予想されている、と韓国化学研究所(テジョン)のSang Il Seokは言う。Seokの研究室は現在17.9%という記録を持っている。「これまでの結果は本当に見事なものです」と、国立再生可能エネルギー研究所(米国コロラド州ゴールデン)の研究者David Ginleyは言う。

オックスフォード大学(英国)の物理学者Henry Snaithによれば、ペロブスカイト太陽電池は低コストとまずまずの効率を兼ね備えるため、これを使えば、理論上、太陽光発電(現在、世界の電力供給の1%未満を占める)を化石燃料発電よりも安くできる可能性があるという。彼が2014年9月11日~12日にオックスフォードで主催した会議では、ペロブスカイト技術の商業的成功を妨げる障害について議論が交わされた。

ペロブスカイト膜を導電層で挟んだ構造の太陽電池は、まだ郵便切手くらいの大きさである。実用化にはスケールアップが必要だが、それによって効率が低下する。小さな太陽電池を10個つなぎ合わせた構成では変換効率は12%になってしまうとSeokは言う。

また、ペロブスカイト太陽電池の構成材料が屋外環境で長期間、湿気や温度変動、紫外光に耐え得るかどうかについてもはっきりしていない。ペロブスカイト構造中のイオンが明暗サイクルに応答して位置を変えるため、性能が劣化する恐れがある、との報告もある。

Snaithらが共同で設立したオックスフォード・フォトボルテイクス社(Oxford Photovoltaics;米国オックスフォード)によると、ペロブスカイト太陽電池もシリコン太陽電池パネルのようにガラスで封じ込めれば業界の安定性基準を満たす可能性があることを、同社の未発表の試験によって確かめたという。同社の商業パートナーは2017年までに、ガラスで封じ込めたペロブスカイト太陽電池を用いて、ビルの外側に設置可能な透明太陽電池パネルを製造することを目標にしている。またSnaithらは、構成層の1つを絶縁性プラスチックにカーボンナノチューブを埋め込んだ材料で置き換えることでペロブスカイト太陽電池を熱や湿気から保護できることを見いだし、2014年9月16日にNano Lettersに発表した(S. N. Habisreutinger et al. Nano Lett. http://dx.doi.org/10.1021/nl501982b; 2014)。

一方で、こうした工学的技術の必要性が障害になるかもしれない、とコロラド大学ボールダー校(米国)の化学者Arthur Nozikは指摘する。結晶シリコン太陽電池モジュール(太陽電池市場の9割を占める)の価格はこの数年で大幅に下落した。現在は横ばい状態にあるものの、今後もゆっくり下がり続けると予想されている。つまり、現在の光起電力システムの総コストで大部分を占めているのは、保護ガラスや配線、ラッキング、ケーブル敷設、工事費用であり、発電材料のコスト自体はそれほど大きな問題ではなくなってきているのだ。

これら全てのコストを考慮すると、ペロブスカイト太陽電池が効率面でシリコン太陽電池を上回らない限り、最終的なコスト削減は難しいだろう。短期的な取り組みとして、企業は、シリコンウエハー上にペロブスカイト膜を堆積させることに重点を置いている。シリコンで捕捉できない波長の光をペロブスカイトで捕捉することによって効率を高めることが狙いだ。2014年9月10日、オックスフォード・フォトボルテイクス社は、こうした「タンデム」型太陽電池の試作品を2015年までに作製するため共同開発を行っていること、またペロブスカイトを取り入れることによってシリコン太陽電池の効率が2割向上して30%に近づく可能性があることを発表した。一方、Malinkiewiczは、シリコンでは対応できないニッチ分野を探したいと考えている。例えば、長期的な耐久性は劣るかもしれないが、広げて屋根瓦に載せられたり、携帯型バックアップ電源として使用できたりするような超低コストフレキシブル太陽電池を開発したいと考えている。

他にも潜在的な問題がある。ペロブスカイトには有毒な鉛が少量含まれており、これが水に溶けて、太陽電池の保護材を通して浸出する恐れがあるのだ。Snaithらは鉛をスズに置き換えて膜を作製してみたが、変換効率は6%を少し超えた程度であった。

多くの大手エレクトロニクス企業や化学企業がペロブスカイトを研究している、と研究者たちは言う。日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA;東京都調布市)も、衛星の動力源用としての可能性を調べている。しかし、Malinkiewiczが気付いたように、ペロブスカイトは安くて作りやすいため、誰もが商品化に成功する可能性がある。スイス連邦工科大学(ローザンヌ)の化学者Mohammad Khaja Nazeeruddinは、「ペロブスカイト技術は、大手化学企業やシリコン企業だけのものではありません。皆の技術なのです」と話す。

(翻訳:藤野正美)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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