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イヌの家畜化のカギは残飯だった?

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 4 | doi : 10.1038/ndigest.2013.130404

原文:Nature (2013-01-23) | doi: 10.1038/nature.2013.12280 | Dog’s dinner was key to domestication

Ewen Callaway

オオカミから「人間の最良の友」を生み出した遺伝的変化が突き止められた。

イヌが食卓の下で待っていても温かい目で見てあげよう。どうやらイヌは、家畜化の過程で、飼い主のデンプンの多い食事の残飯を食べることに適応したらしいのだ。

愛犬が炭水化物の多い食べ物を欲しがっても我慢させる必要はないらしい。

Credit: Chris Amaral/thinkstock

Natureに報告された研究1で、イヌにはデンプンを消化するための遺伝子群が備わっており、近縁の食肉動物であるオオカミにはそれがないことが明らかになった。

この結果から研究チームは、イヌがヒトの居留地の周辺をうろつくことで家畜化されるようになったとする、異論の多かった説が裏付けられたと考えている。「ヒトがわざわざ出かけてオオカミの子どもを捕獲し、家畜化した可能性もありますが、現代農業が始まった頃にイヌがごみ捨て場を訪れて食べ物をあさるようになったとも考えられます」と、この研究を率いたウプサラ大学(スウェーデン)の遺伝学者Kerstin Lindblad-Tohは話す。

イヌはオオカミに比べて体が小さく社交的で、攻撃性が低いが、ビーグルからボーダーコリーまで、すべてのイヌはオオカミの子孫だというのは、イヌの家畜化を調べている研究者たちの統一見解だ。ただし、イヌが最初に家畜化された時期や場所はいずれもよくわかっていない。化石から得られる情報に基づけば、最古のイヌは3万3000年前のシベリアから1万1000年前のイスラエルまでのどこかの時期と場所で現れたことになるが、現代のイヌのDNA研究に基づくと、家畜化の時期は少なくとも1万年前、場所は東南アジアか中東のどちらかとなる。多くの研究者は、イヌが家畜化されたのは1回だけではなく、また、家畜化の後も野生のオオカミと時おり交雑したと考えている。

共に歩む

Lindblad-Tohのチームは、オオカミ12頭と14品種のイヌ60頭の間で遺伝的な違いを探すことで、家畜化と関係する遺伝的変化を洗い出した。探索の結果、イヌとオオカミで異なるものの、イヌの品種間では違いが見られないゲノム領域が、36か所見つかった。

そのうち19か所には、脳の発達や機能にかかわる遺伝子が含まれていた。イヌがオオカミよりずっと人懐っこい理由が、これらの遺伝子で説明できそうだとLindblad-Tohは話す。さらに驚いたことに、イヌのゲノムの中からデンプンの消化や脂肪の分解を助ける遺伝子が10個見つかった。実験研究から、このうち3個の遺伝子の変化によって、イヌがデンプンを糖に分解して吸収する能力が、肉を主食とするオオカミよりも高くなっていることが示唆された。

大半のヒトも、デンプンを容易に消化できるように進化してきた2。Lindblad-Tohは、約1万年前に中東で始まった農耕がヒトとイヌ双方の適応につながったと考えており、「これは平行進化のあかしです。イヌとヒトが共に、デンプンを摂取できるように進化した経緯を実際に示したのですから」と話す。

同じ釜の飯を食べる

しかし、ダラム大学(英国)の進化考古学者Greger Larsonは、デンプンの消化にかかわる遺伝子群が家畜化を促したとする説に強い疑念を抱いており、最古のイヌの化石が農業の黎明期よりも前の時代のものであることを指摘する。彼の研究チームは、イヌの化石のDNAから、家畜化に関係する遺伝的変化が最初に表れた時期を特定しようとしている。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(米国)の遺伝学者Robert Wayneも(彼もまた、古代のイヌのゲノムを調べている)、デンプンの代謝がイヌにとって重要な適応の1つだったのではないかと話す。ただし彼の考えでは、ヒトがイヌを最初に飼い始めた頃、つまり我々の先祖の多くがまだ大きな獣を相手に狩りをしていた頃に、イヌに行動の変化が生じ、その後、こうしたデンプン代謝の形質が発達したのだという。

いずれにせよ、今回の研究で、イヌがオオカミと同じ餌を食べるべきではないことが明確になった。ドッグフードは、未調理・未加工の肉に比べて炭水化物が多く、タンパク質が少ない。この点を指摘したうえで、Wayneはこう言った。「私は毎日のように愛犬家から、イヌにはオオカミに与えるような餌を与えるべきではないか、というメールをもらいますが、今回の論文でその質問に答えたつもりです。答えは『ノー』なのです」。

(翻訳:船田晶子、要約:編集部)

参考文献

  1. Axelsson, E. et al. Nature http://dx.doi.org/10.1038/nature11837 (2013).
  2. Perry, G. H. et al. Nature Genet. 39, 1256–1260 (2007).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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