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熱アシストによる高変換効率の有機発光材料

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 3 | doi : 10.1038/ndigest.2013.130324

原文:Nature (2012-12-13) | doi: 10.1038/492197a | Molecules that convert heat into light

Brian D’Andrade

蛍光性有機分子の設計によって、高効率発光ダイオードの作製が可能になった。このデバイスは、従来品のライバルになるかもしれない。

電子ディスプレイは、インターネット利用に欠かせない手段であり、至る所で目にすることができる。中でも、モバイルディスプレイ市場は驚異的な成長を遂げており、携帯電話の販売台数は2006年に10億台を超えた1。現在は液晶ディスプレイが主流だが、有機発光ダイオード(OLED)もモバイル機器に着々と導入されており、テレビへの使用も増えつつある。そうした状況の中で、今回、魚山大樹ら2が、従来品に代わりうる新しいタイプのOLEDの開発に成功した(Nature 2012年12月13日号 234ページ)。

Credit: C. Adachi

OLEDディスプレイの特徴は、サブマイクロメートルサイズの厚みで働くOLEDが、各ピクセルに配置されていることである。したがって、ディスプレイ中の何百万個もの赤色・緑色・青色OLEDすべてが、高効率であり、高収率で製造可能であり、安定した光出力が可能でなければならない。これらの要求は、OLEDに用いられる有機材料を改良することによって実現されてきた。

OLED技術を推進するカギは新しい化学にある。新しい分子が常識を覆すような意外性をもたらし、新たな解決策を提供してきた。25年前、Tangら3は、現代型のOLED設計を発表した。しかし、TangらのOLEDデバイスは、電流を光にうまく変換することができなかった。その蛍光有機材料の効率が悪かったためである。その後1998年には、物理学者であるForrestと化学者であるThompsonが率いる研究チームが、りん光分子を用いたデバイスを発表し、100%近い高効率変換を可能にした4。蛍光分子と異なり、りん光分子はイリジウムなどの重金属原子を含んでいる。

この研究がきっかけとなり、さまざまな発光色、長い動作寿命、高い効率といった良好な特性を可能にするりん光材料が広範囲に開発されてきた。しかし、青色と緑色と赤色のりん光OLEDを用いたディスプレイの作製は、依然として困難である。なぜなら、一部のりん光デバイスの動作寿命とカラー特性が、ディスプレイ向けの厳しい性能要件を満たさないからだ。りん光材料は100%近い効率を実現する可能性があり、最も有望なディスプレイ用材料である。ゆえに、こうした問題を解決することが特に重要となる。そして今回、魚山らは、特殊なタイプの蛍光材料を用いて高効率OLEDの作製を報告したのだ。

有機分子が電気エネルギーを吸収すると、分子は元の非励起状態からエネルギーの高い励起状態へと移る。高効率デバイスの場合、励起分子が元の非励起状態に戻るときに、光子を放出することによって余分なエネルギーを放出することが望ましい。しかし、励起状態から非励起状態に遷移する際、量子力学の厳密な規則を満たさなければならない。このため、蛍光材料を用いると、多くの励起分子は光子を放出して非励起状態に戻ることができず、結果として光子の代わりに熱を放出することが多くなる。この状況を変えたのがりん光材料である。イリジウムなどの重金属原子を含むりん光有機金属分子を用いると、通常なら熱に変わってしまうエネルギーを利用できるようになる。つまり、りん光分子は、電気エネルギーを吸収した後、光子を放出することによって効率よく高エネルギー状態から低エネルギー状態へと遷移するのである。

今回魚山らは、重金属原子の代わりに、熱アシストつまり、熱を利用して高効率を実現できる蛍光分子を開発した。さらに、これらの分子を用いて、りん光OLEDに匹敵する性能を持つ高効率蛍光OLEDを実現したのだ。用いた蛍光分子はカルバゾリルジシアノベンゼン系であり、合成過程において希少金属触媒や希少重金属原子を必要としない。このため、低コストで合成が可能であると、著者らは考えている。加えて、作製されたOLEDは、空色(ピーク波長473nm)からオレンジ色(577nm)まで複数の色を発した。

ただし、これらの蛍光分子が完全に受け入れられるようになるまでには、多くの課題がある。例えば、ディスプレイ向けに発色を改良しなければならないし、発光分子を導入したOLEDデバイスの動作寿命を最新式のデバイスと同等以上にしなければならない(おそらくこれが最も困難な課題であろう)。また、新しいOLEDを導入した製品が実際に製造できることを証明しなければならない。今回の新しい発光分子が既存の分子に取って代わるかどうかは不明だが、コストと性能の質の点から有力な候補と言える。

この新しい分子を最適化するには時間と労力が必要である。しかし、この研究を指揮する共著者の安達千波矢2は、そうした障害を克服していけるだけの経験を持った研究者だ。

(翻訳:藤野正美)

Brian D’Andradeは、Exponent社(米国)に所属。

参考文献

  1. Li, Z., Bhowmik, A. K. & Bos, P. J. in Mobile Displays: Technology and Applications (eds Bhowmik, A. K., Li, Z. & Bos, P. J.) 2 (Wiley, 2008).
  2. Uoyama, H., Goushi, K., Shizu, K., Nomura, H. & Adachi, C. Nature 492, 234–238 (2012).
  3. Tang, C. W. & VanSlyke, S. A. Appl. Phys. Lett. 51, 913–915 (1987).
  4. Baldo, M. A. et al. Nature 395, 151–154 (1998).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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