中性子数34は新たな魔法数
電子が原子核の周りを軌道運動し、その軌道群が「電子殻」と呼ばれる殻構造を作っているように、原子核を構成する陽子と中性子もまた、軌道運動をしていて、その軌道群が殻構造を作っている。電子殻が順番に埋まると高度に安定した原子(希ガス)ができるように、原子核は、殻構造を埋める陽子または中性子がそれぞれ2、8、20、28、50、82、126個のときに、高度に安定化する。これらの数は、原子核の「魔法数」と呼ばれる。
しかし、陽子または中性子の比率が異常に高いエキゾチック原子核においては、中性子の魔法数がこれらと異なる可能性が1970年代から指摘されていた。どの数が「魔法数」であるかを特定できれば、陽子と中性子を結びつける核力に関する現在の理論を検証したり、非常に重い新しい人工元素の安定性を予測したりするのに役立つ。
エキゾチック原子核では、中性子数28が魔法数ではないことはすでに分かっている1。また2001年には、日本の研究チームが、中性子数34が代わりの魔法数になることを理論的に示していた2。この予想が正しければ、20個の陽子と34個の中性子からなるカルシウム54(54Ca)は、陽子と中性子の両方が魔法数である「二重閉殻」になっているはずだ。しかし、54Caを生成させるのは難しく、中性子数34が魔法数であるかどうかは10年以上も確認できないままだった。
「二重の魔法数」を実験で確認
東京大学の原子核物理学者David Steppenbeckらを中心とする研究チームは、理化学研究所仁科加速器研究センター(埼玉県)のRIビームファクトリー(RIBF)の粒子加速器を用いて、中性子過剰なエキゾチック原子核であるスカンジウム55(55Sc)とチタン56(56Ti)の高エネルギービームを標的原子核のベリリウム(Be)に照射し、54Caを生成させることに成功した。「54Caの励起状態を測定できるだけの強度の55Scおよび56Tiビームを発生させられる施設は、世界中でここにしかありません」とSteppenbeckは言う。
55Scと56TiをBeに衝突させると、ときに「励起状態」の54Caが生成する。この原子核は余分なエネルギーを持っていて、ガンマ線を放出することによりそれを失う。従って、放出されるガンマ線のエネルギーを調べれば、励起した54Ca原子核が、励起してない基底状態の54Ca原子核に比べて、どのくらい大きいエネルギーを持つかが分かる。このエネルギー差が大きいほど、基底状態は安定だということになる。
Steppenbeckらは、54Caの基底状態が、陽子数20の他のエキゾチック同位体に比べて安定であることを見いだした。これにより、中性子数34も魔法数であること、54Caが二重の魔法数を持つことが実験的に確認された3。
ところで、エキゾチック原子核と普通の原子核とで中性子の魔法数が違っているのはなぜだろうか。1つの可能性として、中性子が極端に過剰な原子核では、核力が2個の核子の間の相互作用(二体核力)の単純な和にはなっておらず、3個の核子の間の相互作用(三体核力)も考慮しなければならないことが考えられる。
ボルドー・グラディニャン原子核研究センター(フランス)の原子核物理学者Stéphane Grévyは、「今回の研究は、原子核相互作用における三体核力の重要性を裏付けるものだと思います」と言う。
今回の研究は、恒星における元素合成や超新星における重元素合成の理論を改良するのに役立つだろう。こうした理論には、すでに中性子が過剰になっている原子核がさらなる中性子を迅速に捕獲する「r過程」が含まれている。しかし、今回の知見とr過程との関係については、今後の研究を待たねばならない。
翻訳:三枝小夜子
Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 12
DOI: 10.1038/ndigest.2013.131209
原文
Exotic nuclei held together by another kind of ‘magic’- Nature (2013-10-09) | DOI: 10.1038/nature.2013.13918
- Philip Ball
参考文献
- Bastin, B. et al. Phys. Rev. Lett. 99, 022503 (2007).
- Otsuka, T. et al. Phys. Rev. Lett. 87, 082502 (2001).
- Steppenbeck, D. et al. Nature 502, 207-210 (2013).
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