散開星団の中の惑星形成プロセス
晴れた夜空を眺めると、数千個の星が見えることがある。星はおおむねランダムに分布しているが、一部は、例えば散開星団のような星の集団を作っている。散開星団は比較的若い集団で、銀河系の円盤部に分布している(もう1つの星団である球状星団は、星の数が桁違いに多く、年齢も古い)。最も有名な散開星団が、おうし座にあるプレアデス星団だ(図1)。
星も、またおそらくはその惑星も、このような星団の中で誕生する。しかし、かなりの努力が重ねられたにもかかわらず1,2、散開星団の中に惑星が存在するという証拠はわずかしかない。これまでに見つかった850個を超える惑星のうち3、散開星団の中にあるのは4個にすぎない4-6。これまでに散開星団の中の1万個を超える星が調べられたが、今回、ハーバード・スミソニアン宇宙物理学センター(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)のSoren MeibomらがNature 2013年7月4日号55ページに報告した研究までは7、恒星面を通過する惑星は見つかっていなかった(このN&V記事と取り上げている論文は、2013年6月26日にNatureのオンライン速報版で発表された7)。
恒星面通過とは、恒星の前を惑星が通過して起こる小さな食現象のことだ。恒星面を通過する惑星は、惑星の大きさを見積もることができるため、特に重要だ。Meibomらは散開星団NGC6811において、わずか377個の星の観測データの中から、恒星面を通過する、海王星に近い大きさの惑星を2個、発見した。このような高い惑星発見率は、米航空宇宙局(NASA)が2009年に打ち上げた宇宙望遠鏡ケプラーの超精密なデータによって可能になった8。
散開星団は、小さな望遠鏡でも容易に観測できるものが何十個もあり、その数万個の星の輝きは見るものを魅了してやまない。散開星団の中の星は全て同じ分子雲から生まれ、皆よく似ている。分子雲は低温のガスと微細な粒子の巨大な集まりであり、不安定になる寸前にある。何らかのきっかけがあると、分子雲はなだれのような重力崩壊を始め、数千個の高密度の塊(クランプ)へと分かれる。このような凝縮物はさらに小さくなり、圧縮されるに従って熱くなり、ついには熱核融合が点火して星が生まれる。一方で、星を形成しなかった残りの物質は、星の周りを回り続け、合体して惑星を形成することがある。
惑星の形成にとって、星団の中は静かな環境とはほど遠い。星が互いに近くを通過すると、星の重力で惑星と惑星形成円盤は強く引っ張られるし、高温で若い星からの恒星風や強い紫外光により、星や惑星を形成中の分子雲は追い散らされてしまいかねない。星団が大きく、密度が高いと、こうした効果はより強くなる。
NGC6811は小さな星団だが、散開星団としては若くはなく9、その事実が重要な意味を持っている。散開星団は年をとると散り散りになり、星団を作っていた星は銀河系(天の川銀河)の無数の星たちと混じり合う。つまり、互いに兄弟だった星たちは銀河系中に広がる。散開星団がばらばらになるのにかかる時間は1000万年から1億年ほどで、一般的には多くの星の一生と比べて短い。しかし、散開星団の約10%は、重力が強く、星の離散を遅らせ、この年数を大きく超えて存続する。
NGC6811は形成から10億年が経っており、かつては現在の数よりもずっとたくさんの星を含んでいたに違いない。従って、星どうしの遭遇は頻繁に起こり、惑星を生む分子雲が高温の星によって消散する効果も著しく、惑星を形成する環境としては、現在よりずっと適さないものだったはずだ。惑星や惑星形成円盤は、近くで起こった超新星爆発にも耐えなければならなかったであろう。それにもかかわらず、今回、実際にそうした試練に耐えた惑星系が発見されたのだ。これで惑星形成というプロセスが強固であることが明らかになった。自然は、惑星系を作ることを好み、多くの惑星が誕生のプロセスを生き延びる。
NGC6811で発見された2つの惑星の半径は、それぞれ地球の2.8倍と2.9倍である。ケプラーが発見した惑星の大半は、おおよそこの大きさだ10。惑星の公転周期は18日と16日で、これもケプラーが発見した天体としてはありふれている。だから、この2つの惑星はきわめて典型的な惑星だと考えられる。しかし、親星が暗過ぎたため、Meibomらは、惑星の質量を測定できなかった。このため、Meibomらは、統計的議論を使って惑星であることを証明した。
Meibomらは、定評のあるBLENDERという分析法(論文の補足情報で説明されている)を使い、惑星の恒星面通過信号が誤検出である可能性は0.24%以下と見積もった。誤検出である可能性はおそらく、実際にはもっと小さいだろう。Meibomらは、誤検出である可能性の見積もりに関してはきわめて慎重だった。また、立証は星団での惑星の出現率の見積もりに部分的に依存していて、もっともなことだが、Meibomらは出現率を低めに見積もっているからだ。出現率は独立した形では得られていない。
今回の成果の明らかな限界は、それが1個の散開星団の2個の惑星にのみ基づいているということだ。しかし、NGC6811の星の特徴は、星団の外の星(散在星)の特徴とよく似ているし、星団内と星団外における惑星の出現率は、両方ともケプラーの測定で得られている。従って、2つの出現率の比較は、異なる感度やバイアスを持つ観測結果を比較するために通常必要になる補正が必要なく、簡単だ。
多くの星は、形成後間もない時期のNGC6811よりも小さな散開星団で生まれたと考えられ、おそらく、環境はNGC6811よりも穏やかだったに違いない。Meibomらは、NGC6811での惑星の性質と出現率が、散在星の惑星の性質と出現率ときわめてよく似ていることを示した。この事実は、密度の高い散開星団という環境でも、惑星系は破壊されることが少ないことを意味している。ケプラーは、ほかにも3つの散開星団を観測した。そのうち2つ、NGC6819とNGC6791は、NGC6811よりもかなり古く、おそらくさらに密度が高く、初期の環境は動力学的に活発だったとみられる。
中でもNGC6791は非常に興味深い。この散開星団の年齢は70億歳から90億歳であり、これだけ古い散開星団はまれだ。ヘリウムよりも重い元素が豊富にある点も珍しい。NGC6791での惑星出現率を調べることは、きわめて魅力的な研究テーマと言えるだろう。
翻訳:新庄直樹
Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 10
DOI: 10.1038/ndigest.2013.131032
原文
The robustness of planet formation- Nature (2013-07-04) | DOI: 10.1038/nature12405
- William F. Welsh
- William F. Welsh は、米国カリフォルニア州のサンディエゴ州立大学天文学科に所属。
参考文献
- van Saders, J. L. & Gaudi, B. S. Astrophys J. 729, 63 (2011).
- Perryman, M. The Exoplanet Handbook 109 (Cambridge Univ. Press, 2011).
- http://exoplanetarchive.ipac.caltech.edu
- Lovis, C. & Mayor, M. Astron. Astrophys. 472, 657–664 (2007).
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