地球温暖化で紛争が増える?
気温が高くなると人間はキレやすくなり、そうした傾向は人類の歴史を通じて世界中で見られる、という驚くべき報告が登場した。気候の変化が何らかの形で紛争を誘発すると主張する研究が増えており、今回の研究も、それに沿ったものだ。
2013年8月1日にScienceにオンライン発表された論文1によると、気温と降水量のわずかな変化により、個人間の衝突から大規模な内戦や社会の崩壊まで、さまざまな紛争が起こるリスクがはね上がるという。研究チームは、環境の変化と人間の攻撃性との関係について調べた60以上の研究論文を分析した。研究対象地域は6つの大陸に及び、期間は1万2000年以上にわたる。
研究チームは、気温が1標準偏差上昇(今日の米国では、ある月の平均気温が約3℃上昇することに相当)すると、窃盗や殺人などの個人間の暴力の頻度が4%増加し、内乱や暴動などの集団的な暴力のリスクが14%増加することを見いだした。なお、気温の影響に比べると小さいものの、洪水と干ばつも紛争の頻度に影響を及ぼすという。
研究チームを率いたカリフォルニア大学バークレー校(米国)の計量経済学者Solomon Hsiangは、「気候変化に対する人々の応答に非常に一貫性が見られることに驚かされました」と言う。彼らは、地球温暖化が進み、降水パターンが変化するにつれ、気候が人間の行動に及ぼす影響はさらに明瞭になるだろうと警告する。
しかし、今回の研究では、気候が人間の行動に影響を及ぼす仕組みについては説明しようとしていない。極端な気候を単に各種の紛争と関連付けただけで、その相手が、9世紀の古典期マヤ文明の崩壊から、プロ野球の故意死球まで、多岐にわたっているだけだ。環境の変化が紛争を引き起こすメカニズムは明確になっておらず、多くの政治学者は、環境要因が紛争の原因となっているという仮説を疑問視している。紛争は多くの社会的因子が複雑に絡み合うことによって引き起こされるはずだからだ。
実際、この数十年間に顕著な温暖化が起きているアフリカでは、大規模な紛争は減少しており2,3、これは、今回の研究や、以前の同様の研究4,5で示された傾向とは矛盾する。
ウッズホール海洋研究所(米国マサチューセッツ州)の環境統計学者Andrew Solowは、こうした矛盾した研究結果が出ているということは、気候と紛争の関係性を明確に示すには、より多くの変数を追跡できる事例研究を通して検証する必要があると指摘する。そうしないと、紛争の定義や歴史の範囲を少し変えるだけで、気候と紛争との関係が意図せず誇張されてしまうと、彼は言う。「データに一生懸命取り組んでいると、今回のように、何かしらの関係性を見つけてしまうことは多いのです。しかし物事は、そんなに単純ではありません」。
翻訳:三枝小夜子、要約:編集部
Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 10
DOI: 10.1038/ndigest.2013.131005
原文
Warming climate drives human conflict- Nature (2013-08-01) | DOI: 10.1038/nature.2013.13464
- Lauren Morello
参考文献
- Hsiang, S. M., Burke, M. & Miguel, E. Science http://dx.doi.org/10.1126/science.1235367 (2013).
- Buhaug, H. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 107, E186-E187 (2010).
- Theisen, O. M., Holtermann, H. & Buhaug, H. Int. Secur.36, 79-106 (2011).
- Hsiang, S. M. , Meng, K. C. & Cane, M. A. Nature 476, 438-441 (2011).
- O'Loughlin, J. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 109, 18344-18349 (2012).