遺伝学:ヒトパンゲノムの概要参照配列が初めて発表される
First draft of a human pangenome
doi: 10.1038/s41586-023-05896-x
doi: 10.1038/s41586-023-05896-x
doi: 10.1038/s41587-021-01195-w
ルイーズ・ブラウンが体外受精によって初めて誕生してからほぼ40年がたち、その間に全世界で約500万人の試験管ベビーが生まれた。特に中国などでは、着床前遺伝子診断(PGD)が一般的に用いられるようになってきている。Editorialでは、CRISPR–Cas9遺伝子編集やミトコンドリア置換療法(MRT)などの新しい遺伝子操作技術のヒト胚への応用を考察し、PGDと比較して対比させる(Editorial, p. 993)。同様にCorrespondenceは、現在の状況下で生殖細胞系列の遺伝子操作を進めることの根拠に疑問を呈し(Correspondence, p. 1023)、体細胞や生殖細胞の疾患予防と形質強化に関する一般市民の考え方に注目する(Correspondence, p. 1021)。次世代塩基配列解読法と表現型判定法のプロジェクトは対象とする集団が拡大し、ヒトの遺伝的多様性に関する理解が深まりつつあるが、一細胞塩基配列解読法の進歩も、ヒト胚の遺伝的多様性をこれまでになく詳細に見いだすようになるものと期待される。
また、ヒト胚の体外培養技術も急速に進歩し、その生存を最長14日間維持できるようになった。14日というのは、この時点で全ての胚研究を中止すべきであるとして、1984年のウォーノック報告書が設定した期限である。今月号のために集められた専門家たちが、最近の方法論の進歩をふまえて、14日ルール見直しの機が熟したのかどうかを論じる(Feature, p. 1029)。
MRTは、英国での承認が待たれる初めての生殖細胞系列の治療法であり、臨床化が近づいている。この方法では、卵母細胞の病原ミトコンドリアがドナー卵母細胞由来の正常ミトコンドリアで置換される。Greenfieldらの総説は、現在開発中のさまざまなMRTについて、そして安全性と有効性を確保するための未解決の技術的課題について概説する(Review, p. 1059)。Steve Connorは、MRTの実施後に母親のミトコンドリアに逆戻りする現象をめぐる懸念を調べ、2000年代前半にミトコンドリアの提供を受けて誕生した成人間近の約30例について論じる(News Feature, p. 1012)。
この他にもAmber Danceが、とりわけCRISPR–Cas9法のような簡便で低コストの遺伝子編集技術が広い分野で利用可能となった状況を念頭に、生殖細胞の編集をめぐる論争と、その応用目的が遺伝病の予防から人間強化のための技術へ移行したときに生じる倫理的、社会的問題を考察する(News Feature, p.1006)。
遺伝子マーカーに関する情報を用いて将来の配偶者を選ぶことは、長い間サイエンスフィクションの題材であった。DNAプロファイルによる結婚仲介の流行は起こっていないが、Malorye Allison Brancaは、商業的な妊娠前・出生前検査サービスのブームについて論じる(News Feature, p.1016)。
さらに、生物工学技術と遺伝子技術が強力になり、ヒトの体細胞と生殖細胞に応用されることが多くなってきたが、その是非を誰が決めるのかが盛んに議論されるようになってきた。2015年の「生命工学と倫理的想像力に関するグローバルサミット(BEINGS)」という会議をふまえ、さまざまな分野の数多くの研究者からなるグループが、ヒト細胞への生物工学の応用に指針を与える合意原則をまとめた(Perspective, p. 1050)。こうした強力な生物学的ツールの適切な応用法は研究領域で一致して決定しなければならない、というのがその主張である。
doi: 10.1038/nbt.4018
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