古生物学:遺伝学が明らかにしたヨーロッパにおける最古の犬の歴史
Nature
家畜化された犬が、少なくとも1万4200年前には、すでにユーラシア西部に広く分布していたことを報告する2つの論文が、Nature にオープンアクセスで掲載される。これらの論文は、これまで知られていた最古の犬のゲノムを報告しており、これまでの最古の記録である約1万900年前よりも古いものである。また、この時点で遺伝的に類似した犬の集団が、ユーラシア西部に広く広がっていたことも明らかになった。これらの研究結果を合わせると、ヨーロッパにおける犬の初期の歴史を明らかにするものである。
農業が始まる前のヨーロッパに存在した家畜は、犬だけであったが、その起源の正確な時期は依然として不明である。考古学的証拠によると、犬は1万5000年以上前の旧石器時代にオオカミから分岐したとされ、ヨーロッパで確認できる最古の犬の遺骸は少なくとも1万4000年前のものだとされる。しかし、全ゲノムデータがなかったため、これらの初期のヨーロッパ犬の起源を確認することは困難であった。
最初の研究では、Anders Bergströmら(イーストアングリア大学〔英国〕)が、ヨーロッパおよびその周辺地域で発見された216体の犬およびオオカミの遺骸のゲノムを解析した。最も古い標本は、スイスのケスラーロッホ(Kesslerloch)遺跡から出土した初期の犬のもので、放射性炭素年代測定の結果、1万4200年前のものとされた。ゲノム解析の結果、ケスラーロッホの犬は、ほかの地域の犬と共通の祖先を持つことが判明した。これは、家畜化された犬の遺伝的多様化が1万4200年以上前に始まっており、ヨーロッパの旧石器時代の犬が独立した家畜化過程から派生したものではないことを示している。著者らは、また、新石器時代のヨーロッパの犬の一部に南西アジア系の遺伝子が流入していることを発見した。これは、農業がヨーロッパに広がる過程での人々の移動を反映している。しかし、この遺伝的影響は人間に比べて犬では小さかった。これは、地元の狩猟採集民に属する犬が、新石器時代の、そしておそらく現代のヨーロッパの犬に対しても、大きく寄与していることを示唆している。
別の研究では、Laurent Frantzら(ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン〔ドイツ〕)は、トルコのプナルバシュ(Pınarbaşı;約1万5800年前)、英国のゴフ洞窟(Gough’s Cave;約1万4300年前)、およびセルビアの2つの中石器時代遺跡(それぞれ約1万1500~7900年前、8900年前)から発見された犬の遺骸のゲノムを解析した。その結果、少なくとも1万4300年前には、家畜化された犬がすでに西ユーラシア全域に広く分布していたことが示された。これらの旧石器時代の犬は、遺伝的に類似しており、1万8500年前から1万4000年前の間にこの地域全体に拡大した集団に属していた。遺骸は、遺伝的および文化的に異なる複数の狩猟採集民集団と関連しており、犬の拡散はこれらの集団の移動や相互作用と関連していた可能性があることを示唆している。
これらの研究結果を合わせると、犬がヨーロッパに早い時期から存在し、広まっていったことを示す強い遺伝学的証拠になる。また、ゲノム解析により、ヨーロッパにおける犬の存在は、後期旧石器時代(約1万5800~1万4200年前)にまでさかのぼることが明らかとなった。さらに、これらの研究は、古代の人類集団がいかに移動し、交流し、最初の犬たちと生活をともにしたかについて、新たな知見をもたらしている。
- Article
- Open access
- Published: 25 March 2026
Bergström, A., Furtwängler, A., Johnston, S. et al. Genomic history of early dogs in Europe. Nature 651, 986–994 (2026). https://doi.org/10.1038/s41586-026-10112-7
- Article
- Open access
- Published: 25 March 2026
Marsh, W.A., Scarsbrook, L., Yüncü, E. et al. Dogs were widely distributed across western Eurasia during the Palaeolithic. Nature 651, 995–1003 (2026). https://doi.org/10.1038/s41586-026-10170-x
News & Views: Dogs have deep genetic roots in ice-age Europe
https://www.nature.com/articles/d41586-026-00378-2
家畜化された犬が、少なくとも1万4200年前には、すでにユーラシア西部に広く分布していたことを報告する2つの論文が、Nature にオープンアクセスで掲載される。これらの論文は、これまで知られていた最古の犬のゲノムを報告しており、これまでの最古の記録である約1万900年前よりも古いものである。また、この時点で遺伝的に類似した犬の集団が、ユーラシア西部に広く広がっていたことも明らかになった。これらの研究結果を合わせると、ヨーロッパにおける犬の初期の歴史を明らかにするものである。
農業が始まる前のヨーロッパに存在した家畜は、犬だけであったが、その起源の正確な時期は依然として不明である。考古学的証拠によると、犬は1万5000年以上前の旧石器時代にオオカミから分岐したとされ、ヨーロッパで確認できる最古の犬の遺骸は少なくとも1万4000年前のものだとされる。しかし、全ゲノムデータがなかったため、これらの初期のヨーロッパ犬の起源を確認することは困難であった。
最初の研究では、Anders Bergströmら(イーストアングリア大学〔英国〕)が、ヨーロッパおよびその周辺地域で発見された216体の犬およびオオカミの遺骸のゲノムを解析した。最も古い標本は、スイスのケスラーロッホ(Kesslerloch)遺跡から出土した初期の犬のもので、放射性炭素年代測定の結果、1万4200年前のものとされた。ゲノム解析の結果、ケスラーロッホの犬は、ほかの地域の犬と共通の祖先を持つことが判明した。これは、家畜化された犬の遺伝的多様化が1万4200年以上前に始まっており、ヨーロッパの旧石器時代の犬が独立した家畜化過程から派生したものではないことを示している。著者らは、また、新石器時代のヨーロッパの犬の一部に南西アジア系の遺伝子が流入していることを発見した。これは、農業がヨーロッパに広がる過程での人々の移動を反映している。しかし、この遺伝的影響は人間に比べて犬では小さかった。これは、地元の狩猟採集民に属する犬が、新石器時代の、そしておそらく現代のヨーロッパの犬に対しても、大きく寄与していることを示唆している。
別の研究では、Laurent Frantzら(ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン〔ドイツ〕)は、トルコのプナルバシュ(Pınarbaşı;約1万5800年前)、英国のゴフ洞窟(Gough’s Cave;約1万4300年前)、およびセルビアの2つの中石器時代遺跡(それぞれ約1万1500~7900年前、8900年前)から発見された犬の遺骸のゲノムを解析した。その結果、少なくとも1万4300年前には、家畜化された犬がすでに西ユーラシア全域に広く分布していたことが示された。これらの旧石器時代の犬は、遺伝的に類似しており、1万8500年前から1万4000年前の間にこの地域全体に拡大した集団に属していた。遺骸は、遺伝的および文化的に異なる複数の狩猟採集民集団と関連しており、犬の拡散はこれらの集団の移動や相互作用と関連していた可能性があることを示唆している。
これらの研究結果を合わせると、犬がヨーロッパに早い時期から存在し、広まっていったことを示す強い遺伝学的証拠になる。また、ゲノム解析により、ヨーロッパにおける犬の存在は、後期旧石器時代(約1万5800~1万4200年前)にまでさかのぼることが明らかとなった。さらに、これらの研究は、古代の人類集団がいかに移動し、交流し、最初の犬たちと生活をともにしたかについて、新たな知見をもたらしている。
- Article
- Open access
- Published: 25 March 2026
Bergström, A., Furtwängler, A., Johnston, S. et al. Genomic history of early dogs in Europe. Nature 651, 986–994 (2026). https://doi.org/10.1038/s41586-026-10112-7
- Article
- Open access
- Published: 25 March 2026
Marsh, W.A., Scarsbrook, L., Yüncü, E. et al. Dogs were widely distributed across western Eurasia during the Palaeolithic. Nature 651, 995–1003 (2026). https://doi.org/10.1038/s41586-026-10170-x
News & Views: Dogs have deep genetic roots in ice-age Europe
https://www.nature.com/articles/d41586-026-00378-2
doi: 10.1038/s41586-026-10112-7
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
