遺伝学:All of Us研究プログラムの多様なデータセットによる過小評価集団の遺伝的解析
Nature
「All of Us(オール・オブ・アス)研究プログラム」で得られた多様な参加者からの約25万例の全ゲノム塩基配列の解析によって、2億7500万を超える遺伝的バリアントが新たに特定された。このことを報告する論文が、今週、Natureに掲載される。これらのデータは、これまで十分な評価が行われていなかった(under-represented)グループに注目して、既存のゲノムデータセットの多様性欠如という長年の問題に対処することを目的としている。
遺伝的多様性の特定とカタログ化は、生物医学研究の非常に重要な手段になっている。しかし、これまでの研究で用いられた遺伝資源には、多様性の欠如という問題があり、少数派グループ(例えば、少数派の人種グループやジェンダーグループ)の人々や恵まれない環境で育った人々が十分に反映されていなかった。All of Us研究プログラムは、多様な参加者(100万人以上)を得て、米国の人口構成をより正確に反映するバイオバンクを構築することを目指している。
今回、Alexander Bickらは、この研究プログラムの最新(5回目)のデータリリースに関して、41万3000人を超える参加者のデータに基づく24万5000例を超える臨床利用可能な品質の全ゲノム塩基配列が含まれていることを報告している。参加者の77%は、これまでの生物医学研究において十分に評価されていなかった過小評価グループに属しており、その内訳は、少数人種グループまたは少数民族グループ(46%)、貧困層(26%)、65歳以上の高齢者層(26%)だった。この研究プログラムでは、10億を超える遺伝的バリアントが特定された。そのうちの2億7500万超のバリアントは、これまでに報告されたことがなく、そのうちの390万超のバリアントは遺伝子のコード領域に影響を及ぼしていた。また、117の疾患に関連する3724の遺伝的バリアントのサブ解析の結果、こうした疾患との関連が既存のデータセットと一致することが明らかになり、今回の知見の信頼性が実証された。All of Us研究プログラムによって得られた遺伝資源は、さまざまな集団を対象として同じ遺伝的特徴の発現の差異を調べる研究をも可能にする。例えば、今回の研究では、全ての祖先系集団において1型糖尿病のリスクが高いことに関連する遺伝的バリアントが、ヨーロッパ系の人々においてのみ、セリアック病のリスクが高いことにも関連していることが判明した。
All of Us研究プログラムは、バイオバンクの多様性を高め、集団間の遺伝的リスクの違いを調べる上で、注目すべき前進となった。この他にも、関連論文がNature、Nature Medicine、Communications Biologyに同時掲載される。
doi: 10.1038/s41586-023-06957-x
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