Research press release

免疫学:mRNA医薬のオフターゲット効果の解明と回避

Nature

治療用mRNAに施された修飾(一部のワクチンに使用されている)によって望ましくない免疫応答が起こることがあるという知見を示し、今後のmRNAベースの治療法のためにこうしたオフターゲット効果の発現可能性を最小化する戦略を提案する論文が、今週、Natureに掲載される。

治療用mRNAはワクチンに使用することができ、このワクチンを接種することで、我々の体内の細胞が病原性タンパク質を複製できるように指令を伝えて、その後の病原体感染から体を守るための免疫応答を発動させることができる。通常、治療用mRNAには修飾が施されており、安定で分解されにくくなり、免疫攻撃を受ける確率が低くなる。この修飾は、mRNAがコードするタンパク質に影響しないとされるが、mRNAの翻訳に影響を及ぼすかどうかは分かっていない。

今回Anne Willisらは、N1-メチルシュードウリジンという修飾リボヌクレオチドをmRNAに導入すると、まれにリボソームフレームシフトが起こることがあり、これにより転写産物の読み枠がずれたり、タンパク質への翻訳が変わったりして、意図したタンパク質に加えて、それとは異なるタンパク質も産生されることを明らかにした。ただし、Willisらは、大部分のタンパク質が意図された通りに作られており、ワクチンによって必要な免疫応答が誘導されることも指摘している。Willisらは、このリボソームフレームシフトによってどのような影響が生じ得るかを評価するため、マウスを用いて重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)mRNAワクチンであるBNT162b2(ファイザー社/ビオンテック社製)に対する応答を調べて、作用標的以外の免疫応答に関連する変性タンパク質の存在を特定した。次に、Willisらは、BNT162b2を接種した被験者(21人)とアデノウイルスベクターワクチンChAdOx1 nCoV-19(アストラゼネカ製)を接種した被験者(20人)の免疫応答を比較した。その結果、意図しない免疫応答は、ChAdOx1 nCoV-19接種者よりもBNT162b2接種者の方が高かった。ただしWillisらは、このフレームシフトの産物が有害事象を引き起こすことを示す証拠は得られなかったと指摘している。

Willisらは、リボソームフレームシフトの発生可能性を減らすために、今後の治療用mRNAの塩基配列設計を改良すべきであることを強調し、そうした影響を減らすためにmRNAの塩基配列を変えることが可能だとする考えを示している。Willisらは、この原理を証明するために、合成mRNAにおいてフレームシフトしやすい領域を特定し、塩基配列を修正したところ、フレームシフトの産物は検出されなくなった。

以上の知見は、治療用mRNAの設計が治療効果にどのような影響を与えるかを理解するのに役立ち、今後のmRNAベースの治療法を最適化して、その有効性の低下や望ましくない作用の増加を引き起こす可能性のあるmRNAの翻訳の誤りを避ける方法に関する洞察をもたらしている。

doi: 10.1038/s41586-023-06800-3

「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。

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