Research press release

環境:水没リスクに直面する沿岸生態系

Nature

このほど実施されたモデル化研究で、産業革命前との比較で1.5℃以上という地球温暖化に伴って海水準の上昇率が増しているために、沿岸生態系が水没する可能性があることが示唆された。このことを報告する論文が、Natureに掲載される。著者らは、パリ協定が掲げる「21世紀半ばまでに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする」という目標を達成することが、これらの重要な生態系の破壊を最小限に抑える最も効果的な手段だと提言している。

全世界の数百万人もの人々が、漁業、防風、レクリエーションのために、マングローブ、潮汐湿地、サンゴ礁、海草藻場、ケルプ藻場などの沿岸生態系に依存していることが知られている。さらに、海洋植生と裾礁は、波のエネルギーを減衰させて、海岸線を保護する一方で、独特な種の群集の生息地になっている。地球温暖化による海水準の上昇のため、こうした重要な生態系の存続に対する脅威が高まっていることが知られているが、海水準の上昇がどの程度になると、生態系の脆弱性が最も高くなるかは解明されていない。

今回、Neil Saintilanらは、世界の沿岸生態系(190カ所のマングローブ林、477カ所の潮汐湿地、872カ所のサンゴ礁島を含む)を対象として、いろいろな地球温暖化シナリオの下で予測される海水準の上昇率の増加に対する脆弱性と曝露を評価した。この上昇率は、年間4ミリメートルから10ミリメートル以上の範囲内だった。評価の結果、気温が2.0℃上昇するシナリオでは、2080~2100年に年間4ミリメートルの海水準の上昇にさらされる地図上の潮汐湿地の面積が倍増する可能性があることが判明した。また、3.0℃上昇するシナリオでは、世界のマングローブ林とサンゴ礁島のほぼ全てと地図上の潮汐湿地の40%で海面水位が年間7ミリメートル以上上昇すると推定された。この上昇率で推移した場合には、サンゴ礁島は、海岸線の侵食や越波の増加によって不安定化し、潮汐湿地の浸水やマングローブ林の冠水が発生する可能性が非常に高い。

今回の知見は、沿岸生態系にとっての安全な活動空間の閾値が迫っており、この閾値が、今後の温室効果ガスの排出経路によって左右されることを示している。また、Saintilanらは、各地域の環境ストレス要因(サンゴ礁の汚染など)の緩和策を実施し、失われた湿地や劣化した湿地を再建して、気候変動や海岸線の後退に対するレジリエンスを高めることの重要性を強調している。

doi: 10.1038/s41586-023-06448-z

「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。

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