Research press release

細胞生物学:ヒトの体を構成する細胞の地図

Nature

ヒトの腸、腎臓、母体–胎児界面(胎盤と母体の細胞が共存する領域)を構成する個々の細胞の配置や細胞間相互作用などを示す参照マップについて報告する3編の論文が、今週、Natureに掲載される。これらは、ヒト生体分子アトラスプログラム(HuBMAP)による一連の論文の一部で、この他にも数々のHuBMAPの論文が、Nature Portfolioの複数の学術誌に掲載される。HuBMAPの研究では、さまざまなヒトの器官や組織において、異なったタイプの細胞が、どのように配置されており、どのような相互作用をするかという点に関する新しい情報が明らかにされており、ヒトの生物学的特性と疾患を研究するための情報資源となる。

ヒトの器官や組織の機能の仕方は、細胞がどのように組織化され、どのような細胞間相互作用が起こるかによって決まる。HuBMAPイニシアチブは、ヒトの体内に細胞がどのように配置されているかをマッピングし、細胞がどのように働き、細胞間の関係がヒト1人の健康にどのように影響するかを調べる研究に役立てることを目指している。この目標を達成するため、HuBMAPコンソーシアムは、ヒトの器官や組織を構成する細胞の分子成分(RNA、タンパク質、代謝産物など)を1細胞の解像度で示す空間マップを構築するために役立つツールを開発してきた。今回、こうしたツールが使用されて、ヒトの腸、腎臓、胎盤に接続している組織を構成する細胞の参照アトラスが作製された。

Michael Snyder、Garry Nolan、William Greenleafらは、多くの異なる構造と機能(消化から免疫系の支援まで)を有する複雑な器官であるヒトの腸の細胞に関する研究を行った。9人の臓器提供者の腸について、8つの部位の分析が行われ、それぞれの部位を構成する細胞の組成が大きく異なっていることが明らかになった。この研究では、上皮細胞の新しいサブタイプが特定され、それぞれ独自の細胞タイプの組み合わせによる「区域」が形成されており、一部の区域は、免疫応答を特異的に仲介できるようになっていることが判明した。これらの知見は、複雑で多様な細胞組成が腸の機能に寄与していることを明らかにしている。

Sanjay Jain、Matthias Kretzler、Kun Zhang、Tarek M. El-Achkar、Pierre C. Dagher、Michal T. Eadonらは、ヒトの正常な腎臓の試料(45点)と疾患状態の腎臓の試料(48点)を用いて、腎臓の細胞を調べた。腎臓が損傷すると、腎細胞に変化が生じ、最終的に腎機能に悪影響が及ぶことがある。この研究では、腎臓のさまざまな部位を構成する主要な細胞タイプ(51種)の1細胞解像度の空間アトラスが作製された。また、腎臓の急性損傷や慢性損傷によって変化した免疫細胞、間質細胞、上皮細胞の細胞状態と区域も明らかになった。これらの細胞状態には、修復経路が正常か不十分かという点に関連した状態も含まれている。

Michael Angelo、Shirley Greenbaumらは、妊娠前半期のヒト胎盤の細胞マップを構築した。この研究では、ヒトの母体–胎児界面(母体の細胞と胎盤の細胞が協調して胎児の成長を支える部位)の試料(66点)から採取された約50万個の細胞と588点の動脈の分析が行われた。特に、母体の動脈が再構築されて、胎児に血液が供給されるようになった子宮胎盤接合面が研究対象となった。この細胞マップは、さまざまな発生段階(妊娠6~20週)について作製され、胎盤細胞と免疫細胞の相互作用が明示されている。この相互作用が解明されたことで、母体の免疫細胞が母体と胎児のそれぞれ独自の細胞の共存を支える仕組みを明らかにするための手掛かりが得られた。

同時掲載のNews & Viewsでは、Roser Vento-TormoとRoser Vilarrasa-Blasiが、「3つのHuBMAPアトラス[中略]は、疾患に関連する細胞状態の空間的位置を定めることで、疾患の理解を前進させる可能性を秘めている」と述べ、今後、他の組織についてもアトラスが作製されることを予想している。その一方で、「健康時と疾患時における細胞の組織化と機能とのロバストな関連を確立する」ためには、より多くの試料を使って、さらに多くの検査を実施する必要があると指摘している。

HuBMAPコンソーシアムによる一連の論文は、embargoの後に下記のリンクからご覧いただけます。

https://www.nature.com/immersive/d42859-023-00019-y/index.html

doi: 10.1038/s41586-023-05915-x

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