Research press release

気候科学:AI気象予報の今後を占う研究成果

Nature

人工知能(AI)を利用した気象予報の可能性を示した2報の論文が、今週、Natureに掲載される。一方の方法では、世界の気象パターンを最長1週間先まで予測でき、もう一方の方法では、極端な降水事象などの短期の気象予測ができる。いずれもAIを利用した新しい気象予報の方法であり、既存の方法と同程度の精度を達成し、これまで予測困難だった気象現象にも対応するものが含まれている。こうした新しい方法については、現在の予報システムを補完または置換する可能性があるかを検討し、もしそのような可能性があれば、どのようなプロセスで補完や置換が進むかを検討することになるが、その前に、従来の気象予報コミュニティーによるさらなる評価と積極的な関与が必要になる。

気象予報は、人命を救い、物的損害を最小限に抑えるために役立つという重要な役割を果たしている。気候変動のために極端な気象事象の頻度と強度が高まっているため、この点は特に強調される。現在、最も正確な予報システムは、数値予報法で、主に物理方程式に基づいている。これには、コンピューターの処理能力が非常に高いことが必要とされるが、処理能力が不足していることが多く、1回のシミュレーションに数時間を要することもある。最近になって、一部のAIを利用した方法によって、気象予報を著しく迅速化できる可能性が明らかになったが、その精度は、数値予報の方法と比べて一般に低いる。

今回、Qi Tianらは、AIを利用した気象予報システム「Pangu-Weather」について報告している。このシステムは、世界の気象を最長1週間先まで予測できる。このモデルは、39年間の世界の気象データを基にした再解析データを使って訓練された。Pangu-Weatherは、現在運用されている世界最高の数値予報システム(ヨーロッパ中期気象予報センターの統合予報システム)に匹敵する精度を達成し、同じ空間解像度の予報を1万倍以上も高速で生成した。また、Pangu-Weatherは、3次元モデルを用いて、さまざまな高度での気象予報を生成し、これまでに発表されたAIを利用した気象予報システム(例えばFourCastNet)よりも包括的で詳細な結果が得られた。

一方、Michael Jordan、Jianmin Wangらは別の論文で、降水の短時間予報モデルで、物理法則とディープラーニング(深層学習)を併用した「NowcastNet」について報告している。短時間予報は、最長6時間先までという非常に短い時間の気象予報であるため、現在の気象に関する詳細な情報が得られ、極端な降水に関するリスク防止と危機管理に極めて重要な役割を果たす。NowcastNetは、米国と中国でのレーダー観測に基づいて、2048キロメートル×2048キロメートルの地域における最長3時間先までの降水量を高解像度で予測した。今回の研究では、62人の気象学者が、極端な降水事例を使って、さまざまな予報モデルの性能と価値を評価した。その結果、約70%の事例で、NowcastNetが他の主要な方法と対比して最も優れていると評価された。今回の知見は、NowcastNetの長所が、降雨量の予報、特にこれまで困難と考えられていた極端な降水事象の予報であることを実証した。

同時掲載のNews & Viewsでは、Imme Ebert-UphoffとKyle Hilburnが、さまざまな気象予報において人工知能に「非常に大きな可能性」が期待されると述べる一方で、「こうしたことは、さまざまなリスクをはらんでおり、気象学者がそのようなシステムの設計、評価、解釈を学ばなければならない」と注意を促している。

doi: 10.1038/s41586-023-06185-3

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