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微生物学:持続生残細菌に対して効果的な新たなクラスの合成レチノイド抗生物質

Nature 556, 7699

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の走査顕微鏡写真。
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の走査顕微鏡写真。 | 拡大する

Credit: Science Photo Library/Getty

黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)感染治療の難題の1つは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)株の罹患率が高く、抗生物質に対する高レベルの抵抗性を示す増殖しない休眠状態の「持続生残(persister)」亜集団が形成されることであり、この持続性残細菌が慢性感染あるいは再発性感染に関与している。このような細菌による感染の治療には、従来の抗生物質では効果がないため、新たな抗菌治療薬が至急必要とされている。本研究では、線虫の一種のCaenorhabditis elegansのMRSA感染スクリーニングを行い、2つの合成レチノイドCD437とCD1530を特定した。これらはいずれも脂質二重層を破壊することによって、増殖中のMRSA細胞と持続生残状態のMRSA細胞の両方を死滅させる。CD437とCD1530は殺菌率が高く、ゲンタマイシンとの相乗効果が見られ、抵抗性選択が起こる可能性が低い。全原子の分子動力学シミュレーションから、これらのレチノイドが脂質二重層に浸透して組み込まれる能力は、その殺菌能力と相関することが分かった。CD437の類似体の1つは、抗持続生残活性を保ち、細胞毒性プロファイルが向上していることが分かった。CD437とその類似体はいずれも、単剤あるいはゲンタマイシンとの併用で、慢性MRSA感染のマウスモデルでかなりの効力を示した。合成レチノイドはさらなる開発と最適化により、現在のところ難治性であるグラム陽性細菌感染の治療における新たなクラスの抗菌剤となる可能性がある。

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