Nature ハイライト

Cover Story:10歳になったヒトゲノム:ゲノミクス時代の成長の苦しみ

Nature 464, 7289

ヒトゲノムの概要塩基配列が公表されたのは今からほぼ10年前のことで、派手に予告されていた完了が披露されたのは2000年6月である。その後の10年間の成果をみて、あの大騒ぎはいったい何だったのかと思う人もいるかもしれない。しかし、生物学や実験技術はその間もずっと進歩し続けている。最近では、大規模な全ゲノム関連解析の成果が次々と発表され、「ヒトの科学」に関する論文の洪水といった状態になっており(p.670)、また「個人ゲノミクス」も登場し始めた。したがって、今、この分野の歩みをつくづくと眺め直すのはちょうどよい時期だろう。ゲノム塩基配列が解読されても、生命現象を単純化することは結局できなかった。「生命の青写真」が手に入れば、物事はたちまちおさまるべきところへきちんとおさまるだろうと考えられていたのだが、E Check- Haydenが述べているように、目の前に現れたものは畏敬の念を起こさせるほどの複雑さだった(p.664)。概要配列の解読に拍車がかかり、予定より2年ほど早い2000年に完成できたのは、熾烈な競争があったからである(p.668)。Opinionでは、こうした競争の主導者だった人々のうちの2人が、過去10年の成果を振り返り、今後10年にかける期待を語っている。F Collins(p.674)は、将来に向けた重要な5つの教訓について述べ、C Venter(p.676)は、個人ゲノミクス時代がもたらす難問は最初のゲノム塩基配列解読という大事業と並ぶくらいのものだと警告している。塩基配列解読への投資は、医療分野に見返りがあるだろうという期待により、ある程度まで正当化されていた。R Weinberg(p.678)は、少なくともがん医療にとっては、これまでのところみるべき成果はほとんどないことを指摘している。いずれは恩恵がもたらされるだろうが、それには従来の科学的手法、特に仮説を考え出して検証するという手法を新しい技術に向けなければならないと彼は述べている。だが、Todd Golubは、先入観のないゲノミクス探査は従来の方法と異なるゆえに、新しい刺激をもたらすだろうと期待している(p.679)。今週号のヒトゲノム特集の全容については、Editorial(p.649)やオンライン特集(www.nature.com/humangenome)をご覧いただきたい。

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