トランスクリプトミクス:ネズミキツネザルの細胞アトラスから得られた霊長類の遺伝子、生理機能、疾患に関する情報
Nature 644, 8075 doi: 10.1038/s41586-025-09114-8
ネズミキツネザル(Microcebus spp.)は霊長類の新たなモデル生物であるが、その遺伝学的、細胞生物学的、分子生物学的な特性については、まだ明らかにされていないことが多い。同時掲載される論文で、我々はネズミキツネザルの27の器官について、大規模な単一細胞RNA塩基配列解読を行った。その結果、分子に基づき分類された750以上の細胞タイプが明らかになり、それらのトランスクリプトームプロファイルの特性解析から、霊長類の細胞タイプの進化に関する手掛かりが得られた。本論文で我々は、作成したこのアトラスを用いて、ネズミキツネザルの遺伝子、生理機能、疾患、変異の特性を解析した。これまでに特定されていなかった数千のネズミキツネザル遺伝子と、数十万の新たなスプライスジャンクションが見つかり、これらの中にはマウスには存在しない8万5000以上の霊長類スプライスジャンクションが含まれていた。主要な免疫遺伝子の包括的な発現プロファイルを健康状態と疾患状態で比較し、免疫細胞の分化、トラフィッキング、活性化をマッピングすることにより、ネズミキツネザルの免疫系を体系的に調べた。免疫プログラムの分子特性やネズミキツネザルの脂肪細胞、ヒトの悪性腫瘍に似た転移性子宮内膜がんといった、霊長類特異的およびネズミキツネザル特異的な生理機能と疾患の特性を明らかにした。マウスには存在しない400以上の霊長類遺伝子の発現パターンが見つかり、多くはヒトの発現パターンと類似しており、一部はヒト疾患への関与が示唆されているものであった。さらに我々は、マウスには存在しない3つの霊長類免疫遺伝子で自然に生じたナンセンス変異を特定し、それらの転写表現型を解析することで、逆遺伝学解析のための実験的枠組みを提示する。本研究は、ネズミキツネザルの分子学的解析および遺伝学的解析の基盤を確立し、将来的な研究で優先すべき霊長類の遺伝子、アイソフォーム、生理機能、疾患を明らかにしている。

