構造生物学:MRAS–SHOC2–PP1Cホスファターゼ複合体の構造
Nature 609, 7926 doi: 10.1038/s41586-022-05086-1
RAS–MAPKシグナル伝達は細胞の増殖に重要であり、ヒトのがんのほとんどで変化が生じている。しかし、RASがRAFを介してシグナル伝達を行う機構の解明はいまだに不完全である。RAF–MEK1–14-3-3複合体の自己阻害型と活性型のスナップショットは明らかになっているが、RAF活性化へとつながる中間段階ははっきりしていない。MRAS–SHOC2–PP1CホロホスファターゼがRAFのセリン259を脱リン酸化すると、その結果として14-3-3とRAF–RASの会合状態に部分的な移動が生じる。RASopathyは、MAPK経路の異常な活性化によって引き起こされる発達性症候群である。RASopathyではMRAS、SHOC2、PP1Cが変異しており、受容体型チロシンキナーゼ(RTK)–RASによって進行する腫瘍ではSHOC2自体が標的であるらしいことが明らかになってきている。SHOC2ホロホスファターゼは、その重要性にもかかわらず、構造学的な解明がまだ行われていない。今回我々は、X線結晶学の手法を用いて、MRAS–SHOC2–PP1C複合体の構造を決定した。SHOC2は、その凹んだ表面を介してPP1CとMRASを架橋しており、これら3つのサブユニット全ての間の相互作用を可能にしている。生物物理学的な特性を詳細に調べることで、GTPが結合した活性状態のMRASによって駆動される協同的な組み立てが起こることが示された。これは他のRASアイソフォームへも拡張可能な観察結果である。今回の知見は、RASにより駆動され、多数の分子が関わるというRAF活性化モデルの概念を裏付けるもので、このモデルでは個々のRAS–GTP分子がRAF–14-3-3とSHOC2–PP1Cを動員して下流の経路の活性化が起こるとしている。RASopathyやがんで見られる変異は、ホロホスファターゼ中のタンパク質–タンパク質界面に存在していて、その結果として親和性と機能が増強されることが分かったのは重要である。まとめると今回の知見により、RASの生物学的性質の基本的な仕組みと、臨床で観察されている亢進されたRAS–MAPKシグナル伝達の機構が明らかになり、治療的介入のための構造学的な基盤が得られた。

