環境化学:キラルなモノテルペン類が明らかにする森林の放出機構と乾燥への応答
Nature 609, 7926 doi: 10.1038/s41586-022-05020-5
モノテルペン類(C10H16)は植生によって大気中へ大量に放出され(> 100 TgC year−1)、これらは大気中でヒドロキシルラジカルやオゾンと容易に反応して新たな粒子、ひいては雲を形成し、地球の放射収支、そして気候変動に影響を及ぼす。モノテルペン類の大半は、エナンチオマーと呼ばれる2つのキラルな鏡像異性体の形で存在するが、測定やモデル化研究でその(+)体と(−)体が区別されることはまれである。そのため、植物におけるモノテルペンエナンチオマーの個々の形成経路やそれらの生態学的機能は、ほとんど明らかになっていない。今回我々は、4か月にわたる管理下の乾燥・再湿潤実験において、紫外光や大気による酸化化学反応のない閉鎖型の熱帯雨林生態系から得られた、大気中のモノテルペンとイソプレンのエナンチオマー別のデータを提示する。意外なことに、放出されるエナンチオマーは日周期の放出ピークが異なり、乾燥の進行に対して異なる応答を示した。同位体標識によって、植生が主としてde novo合成された(−)-α-ピネンを放出するのに対し、(+)-α-ピネンは貯蔵プールから放出されていることが立証された。乾燥が進行すると、(−)-α-ピネンの放出源は貯蔵プールに移り、これは雲の形成に有利に働いた。乾燥以前におけるα-ピネンの2つのエナンチオマーの混合比は、相互間以上に他のモノテルペン類との相関性が高く、これは異なる酵素的制御の存在を示している。今回の結果は、森林生態系からのモノテルペン類放出を駆動する基礎的な過程の理解や、気候変動に対する大気のフィードバックの予測には、エナンチオマーの分布が重要であることを示している。

