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遺伝学:全ゲノム塩基配列解読で明らかになった、重篤なCOVID-19の根底にある宿主因子

Nature 607, 7917 doi: 10.1038/s41586-022-04576-6

重篤な新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、免疫介在性の炎症性肺損傷によって引き起こされる。重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染後に救命救急または入院が必要となるような疾患の進行には、宿主の遺伝的変動が影響する。GenOMICC(Genetics of Mortality in Critical Care)研究によって、重篤患者のゲノムと集団対照のゲノムを比較し、その根底にある疾患機序を解明することが可能になる。今回我々は、7491人の重篤患者と4万8400人の対照個体との比較において全ゲノム塩基配列解読を用い、重篤なCOVID-19の素因となる23種類の独立したバリアントを発見し、それらを再現研究により確認した。インターフェロンのシグナル伝達に関わる遺伝子(IL10RBおよびPLSCR1)、白血球の分化に関わる遺伝子(BCL11A)、血液型抗原分泌型状態に関わる遺伝子(FUT2)におけるバリアントなど、16種類の新たな関連が見いだされた。また、トランスクリプトーム規模の関連および共局在を用いて、疾患重症度に対する遺伝子発現の影響を推測することにより、細胞膜フリッパーゼ(ATP11A)の発現低下やムチン(MUC1)の発現上昇など、複数の遺伝子を重症疾患と結び付ける証拠が得られた。メンデルランダム化解析からは、骨髄細胞接着分子(SELEICAM5およびCD209)や凝固因子F8の因果的役割を支持する証拠が得られた。これらは全てドラッガブルな標的となる可能性がある。今回の結果は、ウイルス増殖制御の不全、または肺炎症や血管内凝固への傾向の増大の、少なくとも2つの異なる機序が生命を脅かす疾患の素因となり得るという、COVID-19の病態生理学の多成分モデルとおおむね一致する。我々は、治療に関係する疾患機序を見いだす上で、重篤例と集団対照との比較が極めて効率的であることを明らかにしている。

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