免疫学:炎症性腸疾患における菌株の多様性による免疫調節
Nature 603, 7902 doi: 10.1038/s41586-022-04502-w
菌類微生物相(菌類相)は、哺乳類の消化管に定着している、複数の界からなる複雑な微生物群集の不可欠な部分であり、免疫調節において重要な役割を担っている。菌類相の異常な変化は、炎症性腸疾患などのいくつかの疾患と結び付けられてきたが、高深度塩基配列解読で捉えられた菌類種が生きた菌類の存在を示すのか、また、特定の菌類がそれらを保有する個体での疾患発症に機能的影響を持つのかについては、現在のところまだ分かっていない。今回我々は、マイコバイオームを、菌株レベルおよび患者特異的なレベルで機能的に解析するためのトランスレーショナルプラットフォームを開発した。このプラットフォームでは、菌類相の高分解能での塩基配列解読と、菌類のculturomics(複数の培養条件を用いて解析する培養手法)およびゲノミクス、CRISPR–Cas9に基づく菌株編集系、in vitroでの機能的免疫反応性解析、in vivoモデルを組み合わせることで、ヒト腸での宿主–菌類クロストークの検証が可能になっている。我々は、炎症性腸疾患患者の大腸粘膜で支配的な日和見菌類である、カンジダ属のCandida albicans株の遺伝的多様性が非常に高いことを見いだした。これらのヒト腸由来分離株のうち、免疫細胞傷害能の高い株(HD株)は、潰瘍性大腸炎の各患者の疾患の特徴を反映していて、IL-1β依存的機構によりin vivoで腸の炎症を増悪させた。ニッチ特異的な炎症性免疫やインターロイキン17A産生ヘルパーT細胞(TH17細胞)のHD株による腸での抗菌応答は、良性の共生状態から病原性共生状態への移行において、C. albicansが分泌するペプチド毒素カンジダリシンに依存していた。これらの知見は、ヒト腸における宿主–菌類相互作用の菌株特異的な性質を明らかにするとともに、炎症性起源の疾患を診断および治療するための新しい標的を浮き彫りにしている。

