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腫瘍生物学:トリプトファンが枯渇するとトリプトファンからフェニルアラニンへの置き換えが起こる
Nature 603, 7902 doi: 10.1038/s41586-022-04499-2
活性化したT細胞はインターフェロンγを分泌し、これがインドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ1(IDO1)酵素の発現を上昇させることにより、細胞内でトリプトファンの不足を引き起こす。今回我々は、トリプトファンが枯渇していても、トリプトファンコドンの全体にわたってインフレームのタンパク質合成が継続することを示す。トリプトファンからフェニルアラニンへのコドンの再割り当て(W>F)が、この過程を促す主要な事象であることが明らかになり、これはトリプトファニルtRNAシンテターゼ(WARS1)によって行われることが突き止められた。遺伝的にコードされた変異と区別するために、我々はこのようなW>Fペプチドを「代替ペプチド(substitutant)」と命名した。大規模なプロテオミクス解析から、W>F代替ペプチドは複数のタイプのがんに非常に豊富に存在することが分かった。W>F代替ペプチドは腫瘍中において、対応する近傍の正常組織よりも多く見られ、これはIDO1発現の上昇や発がん性シグナル伝達、腫瘍–免疫微小環境と関連していた。機能としては、W>F代替ペプチドはタンパク質の活性を障害することがあるだけでなく、細胞表面に提示される抗原の全体像を拡張してT細胞応答を活性化することもある。このように、代替ペプチドは従来のものとは別のデコード機構により生成しており、遺伝子機能や腫瘍の免疫応答性に影響を及ぼしている可能性がある。

