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デバイス物理学:ナノメートルスケールの振動を通して音響布地を実現する単繊維

Nature 603, 7902 doi: 10.1038/s41586-022-04476-9

布地は、その組成や構造が吸音に適しているため、吸音材として用いられてきた。今回我々は、聴覚系から着想を得て、洗濯機で洗えたり羽織ったりできるといった従来の布地品質を維持しながら、高感度な音響マイクロホンとして動作する布地について報告する。この布地媒質は、高ヤング率の横糸を綿製の縦糸に織り込んだものでできており、10−7気圧という微弱な可聴周波数の圧力波を低次の機械的振動モードに変換する。この布地には熱延伸複合圧電繊維が織り込まれており、これが布地に順応して機械的振動を電気信号に変換する。この繊維の感度のカギはエラストマー被覆材であり、これが機械的ストレスを、熱延伸工程の結果、圧電電荷係数が約46 pC N−1と高くなった圧電複合層に集中させる。可聴域の音響励起に応答する電気的出力と空間振動パターンの同時測定によって、振幅変位がナノメートルの布地振動モードが、繊維の電気出力の源であることが明らかになった。単繊維を延伸して、体積にして布地の0.1%未満の圧電繊維を組み込んだ、数十平方メートルの布地マイクロホンを作製できる。今回の研究結果の有用性は、2か所に音響繊維を織り込んだシャツによる音響インパルスの正確な方向の測定、音声発信器と音声受信器として働く2枚の布地の間の双方向通信の確立、シャツによる心音信号の聴診という、3つの異なる応用によって例証されている。

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