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コロナウイルス:SARS-CoV-2オミクロン株によるTMPRSS2使用の変化が感染性と細胞融合活性に影響を与える

Nature 603, 7902 doi: 10.1038/s41586-022-04474-x

重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)のオミクロンBA.1変異株は、2021年に出現し、そのスパイクタンパク質には多数の変異がある。今回我々は、オミクロン株のスパイクタンパク質は、デルタ株と比較してACE2への親和性が高く、その抗原性の顕著な変化が、治療用モノクローナル中和抗体やワクチンの2回接種後に誘導されるポリクローナル中和抗体に対するオミクロン株の回避を増強していることを示す。3回目のmRNAワクチン接種は、中和活性を回復させて中和範囲を広げることが分かった。また、抗ウイルス薬であるレムデシビルやモルヌピラビルが、オミクロンBA.1株に対する有効性を保持していることは重要である。ヒト鼻上皮培養での複製はオミクロン株とデルタ株の単離株で同等だったが、肺細胞や腸細胞ではオミクロン株の複製が低下していた。オミクロン株のスパイクタンパク質には、デルタ株のものと比べて切断効率の低下が見られた。その複製の違いは、スパイクのシュードタイプウイルスアッセイに基づいて、ウイルスの侵入効率にマッピングされた。オミクロン株のシュードタイプウイルスでは特定の細胞タイプへの侵入障害が見られ、これはTMPRSS2の細胞内RNA発現の高さとよく相関しており、TMPRSS2の欠損は、オミクロン株よりもデルタ株の侵入に大きな影響を及ぼした。さらに、特定の侵入経路を標的とする阻害剤によって、オミクロン株のスパイクは、細胞質膜融合による細胞侵入を促進する細胞性プロテアーゼであるTMPRSS2の使用効率が悪く、エンドサイトーシス経路を介した細胞侵入に対する依存性が高いことが実証された。S1/S2の切断が最適ではなく、TMPRSS2を使用できないことと一致して、オミクロン株のスパイクによるシンシチウム形成は、デルタ株のスパイクに比べてかなり減少していた。オミクロン株のS1/S2でのスパイク切断効率の低さは、細胞向性がTMPRSS2発現細胞から離れるように変更したことと関連し、これは病原性の変化に関係している。

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