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物性物理学:反強磁性体の磁気分裂に起因するフェルミアークの出現
Nature 603, 7902 doi: 10.1038/s41586-022-04412-x
フェルミ面は、物質の電子特性、輸送特性、熱力学的特性の制御に重要な役割を果たしている。フェルミ面は、明確に定められたエネルギーバンドに関しては運動量空間の閉じた曲線からなるので、フェルミアークと呼ばれる連結していない部分は、擬ギャップなどの異常な電子状態の特徴になり得る。フェルミアークを得るもう別の方法は、三次元ディラック半金属の時間反転対称性か空間反転対称性を破ることであり、その結果として、反対のカイラリティーを持つワイルノードの対が形成され、それらの射影がフェルミアークによってバルク境界でつながる。今回我々は、立方晶NdBiの反強磁性状態において、新しい磁気分裂効果に起因してネール温度(TN)以下で正孔的フェルミアークと電子的フェルミアークの対が出現することを示す実験的証拠を提示する。観測された磁気分裂は独特で、温度とともに変化し反強磁性秩序パラメーターに従う、曲率が互いに反対のバンドを形成する。これは、バンドの曲率が保存される従来のゼーマン効果やラシュバ効果などの、これまで理論的に検討されたり実験的に報告されたりした磁気分裂の事例とは異なっている。従って、今回の知見は、既存の理論的な考え方では容易には説明できない、長距離反強磁性秩序の存在下でのある種の磁気バンド分裂を実証している。

