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化学:液体セルTEMにおける準安定六方最密充填構造の水素化パラジウム
Nature 603, 7902 doi: 10.1038/s41586-021-04391-5
準安定相は速度論的に有利な構造で、自然界の至る所に存在する。高エネルギー前駆体から成長した結晶は、熱力学的に安定な基底状態構造を形成するのではなく、温度、圧力、結晶サイズなどの初期条件に応じて、最初に準安定構造をとることが多い。さらに結晶が成長すると、通常は、準安定相からより低いエネルギーの相への、そして最終的にはエネルギー的に安定な相への一連の変換が起こる。準安定相は優れた物理化学的特性を示すことがあり、従って、新しい準安定相の発見や合成は、材料科学におけるイノベーションへの有望な道筋である。しかし、準安定材料の探索の大半は試行錯誤によるものであり、経験、直観、さらには推論的予測(すなわち「経験則」)に基づいて行われてきた。こうした制約から、合理的設計に基づいて新しい準安定相を発見する新しいパラダイムの出現が必要になる。今回、そうした設計ルールが、液体セル透過型電子顕微鏡において合成された準安定六方最密充填(hcp)構造の水素化パラジウム(PdHx)の発見に具現化された。この準安定hcp構造は、溶液中の前駆体濃度間の独特な相互影響を通して安定化されている。つまり、Hの供給が充分であればサブナノメートルスケールのhcp構造が有利となり、Pd供給が不十分であればさらなる成長とそれに続く熱力学的に安定な面心立方構造への転移が阻害される。これらの知見から、新しい準安定相を発見するために展開可能な準安定性操作戦略に関する熱力学的知見が得られる。

