神経科学:ショウジョウバエの痕跡条件付けと遅延条件付けの基盤にある別個の機構
Nature 603, 7900 doi: 10.1038/s41586-022-04433-6
連合学習の2つの形式、遅延条件付けと痕跡条件付けは、ヒトや高等哺乳類で広く研究されてきた。遅延条件付けでは、無条件刺激(電気ショックなど)を条件付け刺激(音など)の終わり際に与え、両刺激は同時に終了させる。痕跡条件付けでは、条件付け刺激と無条件刺激の間に「痕跡」間隔をおいて両者を分離する。従って痕跡条件付けでは、条件付け刺激と無条件刺激の偶発性を学習するのに、条件付け刺激の神経表現がその終了後も維持されていること(つまり注意をそらすことも可能)が必要であり、このため痕跡条件付けは遅延条件付けよりも認知的要求が高くなる。今回我々は、神経遺伝子操作を伴うバーチャルリアリティー行動とin vivoでの2光子脳画像化を組み合わせて、ショウジョウバエ(Drosophila)での視覚痕跡条件付けと遅延条件付けでは、楕円体のリングニューロンR2とR4mが働いていることを明らかにする。痕跡条件付けでは、痕跡間隔中のカルシウムトランジェントの振動が増すとともに、訓練を繰り返す間にその減衰が遅くなった。これらの影響は、どちらも注意をそらすことに対して脆弱だった。ドーパミン作動性活動にはリングニューロンの信号維持が伴い、この活動はもっぱら痕跡条件付け中に注意をそらすことによって低下した。また、リングニューロンのドーパミンD1様受容体信号とD2様受容体信号は、遅延条件付けと痕跡条件付けで異なる役割を持っており、ドーパミンD1様受容体は両条件付けに介在するのに対し、ドーパミンD2様受容体は、痕跡条件付けの痕跡間隔中のリングニューロン活動の維持に限って関与していた。これらの観察結果は、覚醒中、前頭前皮質活動中、高次認知学習中の哺乳類でこれまでに報告されているものに似ている。

