構造生物学:HER2–HER3–NRG1β複合体の複数の構造から明らかになった動的な二量体界面
Nature 600, 7888 doi: 10.1038/s41586-021-04084-z
ヒト上皮増殖因子受容体2(HER2)とHER3は増殖因子ニューレグリン1β(NRG1β)が結合すると、強力に発がんを促進するヘテロ複合体を形成する。HER2とHER3が相互作用する機構は、複合体の構造が全く得られていないためにまだ分かっていない。今回我々は、NRG1βが結合した、ほぼ完全長のHER2–HER3二量体を単離し、クライオ電子顕微鏡法を用いて、細胞外ドメインモジュールを再構築し、HER2–HER3の二量体化で生じる界面の予想外の動態を明らかにした。さらに、アポHER2単量体は、HER3二量体化アームが結合するポケットを確立するのに必要なリガンド誘起性のコンホメーション変化を起こさないので、NRG1βが結合したHER3の二量体化アームが解像されないことが分かった。発がん性細胞外ドメインを持つ変異体HER2(S310F)の構造では、二量体界面を安定化するHER3二量体化アームと代償的な相互作用が生じることが観察された。HER2–HER3とHER2(S310F)–HER3の両方が、HER2を標的とする治療用抗体トラスツズマブと結合する能力を保持していたが、変異の生じた複合体はペルツズマブとは結合しなかった。我々のHER2(S310F)–HER3–NRG1β–トラスツズマブFab複合体の構造から、受容体が形成する二量体がトラスツズマブと適応するようにコンホメーション変化を起こすことが明らかになった。従って、治療薬は、発がん性変異と同様に、HER2–HER3ヘテロ二量体に内在する動態を利用している。単独のリガンドが結合したHER2–HER3ヘテロ二量体の独特な特徴から、二量体界面によるリガンド占有のアロステリックな検知が明らかになり、HER2の細胞外ドメインが活性を持つカノニカルな二量体界面を使ってホモ結合しない理由が説明される。

