コロナウイルス:致死性COVID-19の分子単一細胞肺アトラス
Nature 595, 7865 doi: 10.1038/s41586-021-03569-1
呼吸不全は、重篤な重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染患者の主要な死因だが、肺組織レベルでの宿主応答についてはよく分かっていない。今回我々は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による死亡後に、迅速に剖検が行われた19人と対照群の7人の肺から採取した約11万6000個の細胞核について、単一核RNA塩基配列解読を行った。統合解析によって、細胞組成、細胞の転写状態、細胞間相互作用における相当な変化が明らかになり、致死的なCOVID-19の生物学的性質に関する手掛かりが得られた。COVID-19患者の肺では高度な炎症が起きており、異常に活性化した単球由来マクロファージと肺胞マクロファージの高密度な浸潤が見られたが、T細胞応答は低下していた。他のウイルス性や細菌性の肺炎と比較すると、単球・マクロファージ由来のインターロイキン1βと上皮細胞由来のインターロイキン6はSARS-CoV-2感染に独特な特徴である。II型肺胞上皮細胞は炎症に関連する一過的な前駆細胞状態をとっていて、I型肺胞上皮細胞へ完全に移行できず、肺の再生異常につながった。さらに、最近報告されたCTHRC1+病原性繊維芽細胞の増殖が、COVID-19で急速に進行する肺繊維症に関与していることも明らかになった。タンパク質活性とリガンド–受容体相互作用を推定することで、有害な回路を阻害するための薬剤標的候補が特定された。今回のアトラスは致死的なCOVID-19の詳細な分析を可能にし、COVID-19生存者の長期的な合併症を理解するための情報を与える可能性があり、治療法開発のための重要な情報資源となる。