Article

コロナウイルス:NHSのCOVID-19アプリの疫学的効果

Nature 594, 7863 doi: 10.1038/s41586-021-03606-z

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)により、この疾患の拡大防止に役立てるためのデジタル接触追跡が登場した。携帯電話アプリは、アプリユーザー間の接近事象を記録しており、あるユーザーがCOVID-19検査で陽性の場合に、そのユーザーの最近の接触者に即座に通知を行うことができる。理論的な証拠から、この新しい公衆衛生介入が支持されているが、その疫学的効果はまだ不明である。今回我々は、英国国民保健サービス(NHS)のCOVID-19アプリのイングランドとウェールズでの効果を、2020年9月24日の配信開始から2020年12月末まで調べた。約1650万人のユーザー(総人口の28%)がこのアプリを日常的に使用しており、約170万件(つまり接触追跡に同意した初発症例当たり4.2件)の曝露通知が送信された。アプリの通知を受けた人のうち、後に症状が現れて、検査で陽性と判定された人の割合[二次発症率(SAR)]は6%と推定され、これは手作業で濃厚接触者を追跡した場合のSARと同等であった。2つの補完的な手法を用いて、アプリによって感染が回避された症例数を推定したところ、通知とSARに基づくモデル化では28万4000症例(感度分析の中央95%範囲;10万8000~45万症例)、これに対応する近隣の地方自治体との統計学的比較では59万4000症例(95%信頼区間;31万7000~91万4000症例)と推定された。これは、接触通知に同意した1症例当たり約1症例が回避されたことを意味する。アプリの利用率が1ポイント増加するごとに、症例数は0.8%(モデル化を用いた場合)あるいは2.3%(統計学的解析を用いた場合)減少する可能性があると推定された。これらの知見は、ワクチンによる完全な防御がまだ得られてない集団での、このようなアプリの継続的な開発と展開を支持するものである。

目次へ戻る

プライバシーマーク制度