分子生物学:MIR-NATはMAPTの翻訳を抑制し、神経変性におけるタンパク質恒常性を補助する
Nature 594, 7861 doi: 10.1038/s41586-021-03556-6
ヒトゲノムは、数千の天然アンチセンス転写産物(NAT)を発現しており、NATはそれと部分的に一致する配列を持つ遺伝子のエピジェネティックな状態、転写、RNAの安定性、翻訳を調節する。本論文では、脳に特に多く含まれるNATの1つであるMAPT-AS1について報告する。MAPT-AS1は霊長類で保存されており、内部には哺乳類全体に見られる散在性反復配列(MIR)が含まれていて、リボソームRNAとの塩基対形成に関してMAPT mRNAのIRES(internal ribosome entry site)と競合することにより、タウの翻訳を抑制する。MAPTは、ニューロンの天然変性タンパク質(IDP)であるタウをコードしており、タウは軸索の微小管を安定化させる。凝集しやすい過剰リン酸化タウは、タウオパチーに特徴的な封入体を形成する。MAPTの変異は家族性前頭側頭型認知症の原因となり、MAPT H1ハプロタイプを構成するありふれたバリアントは、多くのタウオパチーやパーキンソン病の重要なリスク因子である。興味深いことに、MAPT-AS1あるいはMAPT-AS1由来の最小必須配列(MIRを含む)を発現させるとニューロンのタウレベルが低下した一方、MAPT-AS1の発現を抑制するとタウレベルが上昇した。また、MAPT-AS1の発現はヒト脳のタウ病変と相関していた。さらに我々は、MIRを含むNAT(MIR-NAT)を多数特定し、これらは神経変性に関連するコード遺伝子やIDPをコードする遺伝子に多く見られた。このような遺伝子の1つPLCG1は、MIR-NATを介した翻訳制御を受けていることが確認された。これらの結果は、MAPT-AS1がタウオパチーに重要な役割を果たしていることを実証するとともに、MIR-NATがIDPの翻訳の厳密な制御に幅広く寄与している可能性を示していて、これは特に神経変性におけるタンパク質恒常性に関係してくる。

