遺伝学:体細胞変異の単一分子分解能での全体像
Nature 593, 7859 doi: 10.1038/s41586-021-03477-4
体細胞変異はがんの発生を引き起こし、老化や他の疾患に関与する可能性もある。そうした重要性にもかかわらず、単一細胞あるいは少数のクローンにのみ存在する変異は検出が難しいために、体細胞変異誘発についての我々の知識はわずかな組織で得られるものに限られている。今回我々は、こうした限界を克服するため、エラー率が細胞集団の単一DNA分子において10億塩基対当たり5塩基対未満という新たな二本鎖塩基配列解読プロトコル「ナノレート塩基配列解読法(NanoSeq)」を開発した。このエラー率は、典型的な体細胞変異荷重よりも2桁低く、これによって、あらゆる組織における体細胞変異を、クローン性とは独立して調べることができるようになる。我々は、この単一分子レベルの感度を用いて、いくつかの組織において非分裂細胞の体細胞変異を調べ、幹細胞と分化細胞の比較、および細胞分裂が起こらない場合の変異誘発の研究を行った。その結果、血液や大腸の分化細胞とそれらに対応する幹細胞では、例えば成熟した血液細胞は造血幹細胞よりはるかに多くの分裂を経ているにもかかわらず、著しく類似した変異の荷重やシグネチャーを示すことが分かった。次に我々は、有糸分裂後のニューロンと多クローン性の平滑筋の変異の全体像の特徴を明らかにし、これによって、ニューロンが細胞分裂を行わずに生涯にわたって一定の割合で体細胞変異を蓄積することが確認され、その割合は有糸分裂を行う組織と同様であることが分かった。まとめると今回の結果は、細胞分裂とは独立した変異過程が、体細胞変異誘発の重要な一因であることを示唆している。我々は、単一DNA分子の変異を確実に検出できる能力が、体細胞変異誘発についての我々の理解を発展させるとともに、大規模コホートでの非侵襲的研究を可能にすると予想する。

