コロナウイルス:SARS-CoV-2肺炎における感染マクロファージとT細胞の間の回路
Nature 590, 7847 doi: 10.1038/s41586-020-03148-w
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に感染した患者の一部は、重症肺炎および急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を発症する。これらの患者に見られる独特な臨床的特徴から、SARS-CoV-2に感染した肺胞におけるウイルスへの免疫応答は、他のタイプの肺炎とは異なっていると推測されている。今回我々は、SARS-CoV-2に感染した患者の肺胞における免疫応答の特徴を明らかにすることにより、このウイルスの病理生物学的性質を調べた。SARS-CoV-2誘発性呼吸器不全患者88人と、他の病原体による肺炎であることが知られている、あるいはそれが疑われる患者211人の気管支肺胞洗浄液試料を収集し、フローサイトメトリーとバルクトランスクリプトームプロファイリングを用いて解析を行った。また、重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者から挿管後48時間以内に収集した気管支肺胞洗浄液10試料については、単一細胞RNA塩基配列解読を行った。その結果、SARS-CoV-2感染患者の大多数で、肺胞腔にはT細胞と単球が持続的に豊富に見られることが分かった。バルクおよび単一細胞のトランスクリプトームプロファイリングからは、SARS-CoV-2は肺胞マクロファージに感染し、次いで感染したこれらの肺胞マクロファージが応答してT細胞走化性物質を産生することが示唆された。これらのT細胞はインターフェロンγを産生して、肺胞マクロファージからの炎症性サイトカインの放出を誘導し、T細胞の活性化をさらに促進する。まとめると我々の結果は、SARS-CoV-2が、ゆっくりと展開する空間的に限定された肺胞炎を引き起こし、そこでSARS-CoV-2を含む肺胞マクロファージとT細胞の間に正のフィードバックループが形成されて、持続的な肺胞炎症を誘導することを示唆している。