ナノスケール材料:分子三重項励起子を「明るい」励起子に変えるランタノイドドープ無機ナノ粒子
Nature 587, 7835 doi: 10.1038/s41586-020-2932-2
三重項励起子は、固体状態系と溶液相系の両方において寿命と拡散長が長く、発光、オプトエレクトロニクス、光子周波数変換、光触媒反応に応用されていることから、分子系やハイブリッド系における三重項励起子の生成、制御、移動は非常に興味深い。分子の三重項励起子(束縛された電子–正孔対)は、スピン0の基底状態準位とスピン1の三重項準位の間の直接光学遷移が禁制なため、「暗状態」である。従って、三重項ダイナミクスは通常、重金属を用いるスピン–軌道相互作用か、分子設計による一重項–三重項エネルギー分裂の調整を通して制御される。これらの方法はいずれも、改善できる特性の範囲と使用できる分子構造に制約がある。今回我々は、有機分子とランタノイドドープ無機絶縁体ナノ粒子を結合させることによって、三重項ダイナミクスを制御できると実証する。これによって、基底状態一重項から励起状態三重項への古典的禁制遷移が振動子強度を獲得し、光子吸収を介して分子上に三重項を直接生成できるようになる。光生成された一重項励起子は、サブ10ピコ秒の時間スケールで、項間交差によって効率1で三重項励起子に変換できる。分子の三重項励起子状態は、効率1でランタノイドイオンへのエネルギー移動を起こすため、「暗い」三重項励起子のルミネッセントハーベスティングが可能となる。さらに我々は、ランタノイドナノ粒子–分子ハイブリッド系で近赤外光励起によって生成された三重項励起子が、ランタノイド–三重項励起融合過程を介して効率よくアップコンバージョンできることを実証する。この過程によって、吸熱アップコンバージョンが可能になり、固体状態において近赤外周波数から可視周波数への高効率アップコンバージョンが実現される。今回の結果から、オプトエレクトロニクス研究や生物医学研究の多くの分野に不可欠な、三重項励起子を制御する新たな方法が得られる。

