Article

遺伝学:単一細胞RNA塩基配列解読によるヒト肺の分子的な細胞アトラス

Nature 587, 7835 doi: 10.1038/s41586-020-2922-4

単一細胞RNA塩基配列解読を用いた研究によりさまざまな細胞の遺伝子発現プロファイルの概要が提示されつつあるが、臓器単位で分子的な細胞タイプを系統的に全て特定し、位置を突き止めて、完全な分子的細胞アトラスを作成することは、これまで困難であった。今回我々は、ヒト肺に含まれる全ての組織区画と血液を構成する約7万5000個の細胞についての液滴ベースおよびプレートベースの単一細胞RNA塩基配列解読を行い、多角的な細胞アノテーション手法と組み合わせて用いることで、ヒト肺の広範な細胞アトラスを作成した。その結果、ヒト肺の58の細胞タイプの遺伝子発現プロファイルと解剖学的位置が明らかになった。これには既知の45細胞タイプのうちの41種類と、これまでには知られていなかった14の細胞タイプが含まれている。この包括的な分子的アトラスから、肺を構成する各細胞タイプの生化学的機能と、それらを同定・追跡するための転写因子やマーカーが特定された。また、循環するホルモンが作用する可能性のある細胞タイプが明らかになり、局所でのシグナル伝達の相互作用および免疫細胞のホーミングが予測可能となった。さらに、肺疾患遺伝子群や呼吸器ウイルスによって直接影響を受ける細胞タイプが特定された。ヒトとマウスのデータを比較することにより、肺の進化の過程で獲得あるいは喪失した17の分子的細胞タイプと、遺伝子発現プロファイルが大幅に変化したその他の細胞タイプが特定されたことから、臓器の進化の過程では、細胞タイプ間での遺伝子発現パターンの切り替えなど、細胞タイプや細胞タイプ特異的な遺伝子発現に広範な可塑性があることが明らかになった。このアトラスは、肺を構成する細胞の特徴、機能、相互作用が発生の過程や組織工学においてどのように成立し、疾患や進化においてどのように変化するかを調べるための分子基盤となる。

目次へ戻る

プライバシーマーク制度