がん:内皮でのTLR3–SLIT2軸の腫瘍性活性化は転移を促す
Nature 586, 7828 doi: 10.1038/s41586-020-2774-y
血管は栄養素と酸素を供給して腫瘍を下支えするのと同時に、がんを播種するための導管としても働いている。今回我々は、乳がんと肺がんのマウスモデルを用いて、内皮細胞もがん播種において能動的で「有益な」役割を持っているのかどうか調べた。まず、転移性の高い腫瘍と低い腫瘍から、遺伝学的にタグ付けした内皮細胞のリボソームと、それらに結合している転写産物を精製した。高深度塩基配列解読から、転移性腫瘍は内皮で軸索ガイダンス遺伝子Slit2の発現を誘導して、Slit2の発現が高い内皮と、Slit2の発現が低い腫瘍という、発現レベルの異なる2つの区画を確立することが明らかになった。内皮由来のSLIT2タンパク質とその受容体であるROBO1は、がん細胞の内皮細胞に向かう移動と血管内侵入を促進した。内皮のSlit2を欠失させると、乳がんと肺がんのマウスモデルで転移性播種が抑制された。逆に、腫瘍のSlit2を欠失させると、転移の進展が増強された。また、腫瘍細胞由来の二本鎖RNAが、RNA感知受容体であるTLR3に対して作用して、内皮のSLIT2の発現を誘導する上流シグナルであることが分かった。それと一致して、転移細胞では内在性レトロウイルスエレメントRNAの一群の発現が上昇しており、これらのRNAは細胞外で検出された。従って、がん細胞は生得的なRNA感知を利用して、内皮で血管内侵入と転移を促す走化性シグナル伝達経路を誘導する。これらの知見は、内皮細胞が転移性播種に有益な直接的役割を担っていること、そして単一の遺伝子(Slit2)が、供給源である細胞に依存してがんの進行を促進したり、抑制したりし得ることを明らかにしている。

