遺伝学:ヘテロクロマチンによるエピジェネティックな遺伝子サイレンシングが菌類に抵抗性をもたらす
Nature 585, 7825 doi: 10.1038/s41586-020-2706-x
ヒストンH3リシン9のメチル化(H3K9me)に依存して生じるヘテロクロマチンは、その内部に取り込まれた遺伝子の転写を抑制する。分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)では、作用を阻止する脱メチル化酵素Epe1がない場合は、H3K9meヘテロクロマチンが細胞分裂を介して伝達されることがある。ヘテロクロマチンが遺伝可能であるために、特定の条件下では野生型細胞のエピ変異獲得が起こり得る。エピ変異は、DNAの変化を介してではなく、不安定な遺伝子サイレンシングを介して表現型に影響を及ぼす可能性がある。本論文では、閾値レベルのカフェイン存在下で培養した分裂酵母では、ヘテロクロマチンに依存してカフェインに抵抗性を持つエピ変異体が生じることを明らかにする。不安定な抵抗性を持つ単離株には独特なヘテロクロマチンアイランドがあり、内部に取り込まれた遺伝子の発現が低下する。こうした遺伝子の中には変異によってカフェイン抵抗性をもたらすものがいくつか含まれる。抵抗性に関係する座位で強制的にヘテロクロマチンを形成させることにより、抵抗性はヘテロクロマチンを介したサイレンシングの結果であることが確かめられた。分析によって、エピジェネティックな過程が表現型の可塑性を助長し、そのために野生型細胞が遺伝的変化なしで、好ましくない環境へと適応できるようになることが分かった。一部の単離株では、これと同時に、あるいはこれに続いて遺伝子増幅事象が起こり、抵抗性が増強される。カフェインは、2種類の抗サイレンシング因子に影響を及ぼす。その1つのEpe1は、下方制御されてクロマチンへの結合が減少する。もう1つはヒストンアセチルトランスフェラーゼのMst2で、短縮型アイソフォームが発現されるようになる。従って、ヘテロクロマチンに依存したエピ変異は、両賭け戦略となって細胞のリスク分散に使われ、これによって細胞は遺伝的には野生型を維持したまま、一時的に侵襲に適応できるようになる。カフェインに対する不安定な抵抗性を持つ単離株は抗真菌剤に対しても交差抵抗性を示すことから、植物やヒトの菌類病原体の抗真菌剤などへの抵抗性に、これと近縁のヘテロクロマチン依存性過程が関与している可能性が考えられる。

