神経科学:自閉症のマウスモデルにおけるオキシトシン応答と社会的行動の回復
Nature 584, 7820 doi: 10.1038/s41586-020-2563-7
自閉症スペクトラム障害の治療法開発における基本的な課題の1つは、症状の不均一性にある。自閉症のリスクを高める遺伝子変異は100以上あるが、個々の変異は多くの症例のうちのほんの一部を占めるのみである。リスク遺伝子は、機能的に関連した経路ごとにサブセットとして分類でき、中でも顕著なのは、シナプスタンパク質、翻訳調節、クロマチン修飾に関するサブセットである。こうした遺伝子の複雑さを整理すべく、最近の治療戦略では、哺乳類において社会的行動の複数の側面を調節する神経ペプチドである、オキシトシンとバソプレッシンが注目されている。しかし、遺伝的なリスク因子が、オキシトシン作動性シグナル伝達を変化させる結果として、自閉症の素因となるかどうかは分かっていない。今回我々は、シナプス接着分子をコードする遺伝子Nlgn3における自閉症関連変異が、ドーパミン作動性ニューロンのオキシトシンシグナル伝達を障害し、マウスで社会的新奇性試験に対する行動応答を変化させることを報告する。特に、Nlgn3の欠失は、腹側被蓋野での翻訳恒常性の破綻を伴っていた。Nlgn3ノックアウトマウスに、MAPキナーゼ相互作用キナーゼに特異性が高く脳浸透性のある新規阻害剤を投与したところ、mRNAの翻訳が復活し、オキシトシンシグナル伝達および社会的新奇性応答が回復した。今回の結果によって、遺伝的な自閉症リスク因子であるNlgn3と翻訳調節、そしてオキシトシン作動性シグナル伝達とが1つにまとめられた。こうした共通の中心的な可塑性要素に注目することで、自閉症の多様性問題を克服するための実用的な手段が得られる可能性がある。そして最終的には、患者集団の発症機構に基づいた階層化を可能にし、治療的介入の成功率を高められると考えられる。

