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医学研究:SARS-CoV-2に感染した宿主細胞のプロテオミクスによって明らかになった治療標的

Nature 583, 7816 doi: 10.1038/s41586-020-2332-7

最近発見された新型コロナウイルスは、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)と命名された。このウイルスのヒトへの感染が引き起こす新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は世界中に急激に広がっている。SARS-CoV-2は、他のコロナウイルスとある程度類似しているが、治療の選択肢はなく、細胞に感染する仕組みも解明されていない。今回我々は、SARS-CoV-2が変化させる宿主細胞経路を突き止め、こうした経路の阻害がヒト細胞でのウイルス複製を防げることを明らかにする。我々はまず、SARS-CoV-2の臨床分離株を用いて感染のヒト細胞培養モデルを確立した。次に、この細胞培養系を使ってトランスレートームとプロテオームのプロテオミクス解析を感染後の経過時間を変えて行い、SARS-CoV-2の感染プロファイルを明らかにした。これらの解析によって、SARS-CoV-2が翻訳やスプライシング、炭素代謝、タンパク質の恒常性維持(プロテオスタシス)や核酸代謝のような、中心的な細胞経路を作り変えることが分かった。これらの経路を標的とする小分子阻害剤は、細胞内でのウイルス複製を妨いだ。これらの知見から、SARS-CoV-2の細胞への感染プロファイルが明らかになり、ウイルス複製を阻害する薬剤の特定が可能になった。我々は、今回の結果が、SARS-CoV-2感染後の宿主細胞の変化を引き起こす分子機構の解明を導くことを期待する。またこれらの知見は、COVID-19の治療法の開発につながる手掛かりとなる。

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