がん:ソニックヘッジホッグ型髄芽腫におけるエロンゲーターの生殖細胞系列変異
Nature 580, 7803 doi: 10.1038/s41586-020-2164-5
がんゲノミクスは、ヒトの悪性腫瘍に関わる多数の遺伝子や重要な分子過程を明らかにしてきたが、多くのまれながんの遺伝学的基盤や分子的基盤はまだ不明である。小児のがん診断例のうち遺伝的素因で説明できるのは5~10%で、既知の体細胞性ドライバー事象と協調して働く遺伝学的事象については、ほとんど解明されていない。最近、悪性の脳腫瘍である髄芽腫の患者の5%に、がん素因であることが実証されている遺伝子の病原性生殖細胞系列バリアントが見つかっている。今回我々は、全てのタンパク質コード遺伝子の解析を行い、髄芽腫のソニックヘッジホッグサブグループ(MBSHH)の小児患者の14%で、ELP1のまれな生殖細胞系列機能喪失バリアントを特定し、再現性を確認した。ELP1は最もありふれた髄芽腫素因遺伝子であり、MBSHH小児患者の間で遺伝的素因の保有率を40%に増加させた。親子や家系の解析から、小児髄芽腫の病歴を持つ2つの家系が見つかった。ELP1の関連する髄芽腫は、SHHα分子サブタイプに限られており、染色体腕9qの体細胞性喪失によるELP1両対立遺伝子の普遍的な不活性化を特徴とする。また、ELP1関連髄芽腫のほとんどでPTCH1の体細胞性変異が見られたことから、生殖細胞系列のELP1機能喪失バリアントとSHHシグナル伝達の構成的活性化とが組み合わさって個体が腫瘍を発生しやすくなると考えられる。ELP1は、進化的に保存されたエロンゲーター複合体の最大のサブユニットであり、この複合体は、tRNAのゆらぎ塩基の位置(U34)の修飾を介して翻訳の伸長段階を触媒する。ELP1関連MBSHH患者由来の腫瘍は、不安定化したエロンゲーター複合体、エロンゲーター依存的tRNA修飾の消失、コドン依存的な翻訳の再プログラム化、UPR(unfolded protein response)の誘導を特徴とし、これらはモデル系でのエロンゲーター欠損によるタンパク質恒常性の喪失と一致する。従って、プロテオームを不安定化させる遺伝的素因が、小児の悪性脳腫瘍発生の決定因子である可能性がある。これらの結果は、他のがんタイプでタンパク質恒常性が果たす役割の研究において役立つとともに、治療介入につながる可能性を示している。

