がん:前立腺がんにおけるBETタンパク質のBD2ブロモドメインに対する選択的阻害
Nature 578, 7794 doi: 10.1038/s41586-020-1930-8
BET(bromodomain and extra-terminal)ファミリーのタンパク質は、エピジェネティックリーダーであり、ブロモドメインを介してアセチル化ヒストンに結合して、遺伝子の転写を調節する。BRD2、BRD3、BRD4、BRDtが持つ2つのブロモドメインBD1とBD2に対して、同様の親和性で結合する二重ブロモドメインBET阻害剤(DbBi)は、単剤療法のがん治験では弱い臨床活性しか示していない。いくつかのタイプのDbBiでは、血中血小板数の減少(血小板減少症)や消化管毒性といった用量を制限する有害事象が見られる。マウスでBrd4を遺伝学的にサイレンシングした場合も同様の血液や消化管の異常が観察されることから、血小板や消化管毒性は、BET阻害に関連したオンターゲット活性である可能性がある。BETファミリータンパク質が持つ2つの個々のブロモドメインには、固有の機能があると考えられており、片方または両方のブロモドメインを薬理学的に抑制した後には異なる細胞表現型が報告されていることから、片方のブロモドメインを選択的に標的にすると、DbBiと比べて異なる奏効性や忍容性のプロファイルが見られる可能性が示唆される。現在利用可能な個々のドメインに選択的な化合物では、in vivoでの奏効性や忍容性の評価に必要となる効力や薬物動態特性が十分でない。今回我々は、一連の医薬化学実験を行い、BETファミリータンパク質のBD2ドメインに選択的で薬のような特性を持つ、非常に強力な阻害剤ABBV-744を発見した。DbBiは広範な細胞増殖阻害を誘導するのに対し、ABBV-744の抗増殖活性は、急性骨髄性白血病と全長のアンドロゲン受容体(AR)を発現する前立腺がんの細胞株に、完全にではないがほぼ限定されていた。ABBV-744は、前立腺がん異種移植片においてもロバストな活性を維持し、DbBiであるABBV-075よりも、血小板や消化管に対する毒性が低かった。RNA発現解析とChIP–seq(chromatin immunoprecipitation followed by sequencing)解析で、ABBV-744は、ARを含むスーパーエンハンサーからBRD4を除去して、AR依存的な転写を阻害するが、ABBV-075に比べると全体的な転写への影響は小さいことが分かった。これらの結果は、BETファミリータンパク質のBD2ドメインを選択的に標的にすることが、がん治療に役立つ可能性があることを明確に示している。

