材料科学:高エントロピー合金の組成による元素の分布、構造、特性の調整
Nature 574, 7777 doi: 10.1038/s41586-019-1617-1
高エントロピー合金は、ほぼ等原子の割合で5種類以上の元素を含む材料群である。それらの非従来型の組成と化学構造は、機械特性の前例のない組み合わせを実現するのに有望である。そうした合金の合理的な設計は、ほぼ無限大の組成空間における組成、構造、特性の間の関係の理解に懸かっている。今回我々は、原子分解能の化学マッピングを用いて、Cantor合金として幅広く研究されている面心立方晶CrMnFeCoNi合金と新しい面心立方晶合金CrFeCoNiPd合金の元素分布を明らかにする。Cantor合金では、5種類の構成元素の分布は比較的無秩序で均一であった。対照的にCrFeCoNiPd合金では、パラジウム原子の原子サイズと電気陰性度が他の元素とは大きく異なり、均一性が著しく低下していた。つまり、5種類の元素は全て、凝集する傾向がより高く、初期濃度波の波長は1〜3 nmと小さかった。その結果としてナノスケールの引張りひずみ場と圧縮ひずみ場が交互に生じ、転位すべりに対する著しい耐性がもたらされた。ひずみを与える実験中にin situ透過型電子顕微鏡観察を行ったところ、塑性変形の初期段階から大規模な転位交差すべりが起こり、多重すべり系の間に強い転位相互作用が生じることが明らかになった。CrFeCoNiPd合金のこうした変形機構は、Cantor合金などの面心立方晶高エントロピー合金の変形機構とは大きく異なり、組成の大きなゆらぎと積層欠陥エネルギーの増大によって促進され、ひずみ硬化と引張延性を犠牲することなくより高い降伏強度が得られる。原子スケールの元素分布のマッピングによって、化学構造を理解し、ひいては組成と原子配置を調整して極めて優れた機械特性を実現する基礎を得る機会が開かれる。

